韓国で初めてニュージャックスウィングを流行させたのは……
矢野:H.O.T.とS.E.S.はたまに名前を目にするのですが、K-POPの元祖アイドルとして必ず名前が挙がるグループですよね。
ゆりこ:曲を聞いたことがなくても存在を知っている人は多いですよね。H.O.T.の衣装や振り付け、S.E.S.の『I'm Your Girl』を聞くと、NewJeansの『Supernatural』と通じるものを感じます。
NewJeansの『Supernatural』は音楽プロデューサーの250(イオゴン)が、ファレル・ウィリアムスが日本人歌手Manamiに書いた『Back of My Mind』という曲をサンプリングしていますので、直接H.O.T.やS.E.S.の曲を……というわけではありません。
しかし、1982年生まれの250(イオゴン)がその時代の音楽から影響を受けていないはずはないと考えます。1979年生まれのミン・ヒジンさんは言わずもがな。彼女は元SMエンターテインメント(以下、SM)のスタッフですし、先日Instagramに上がったS.E.S.のメンバーとの写真を見れば関係性も一目瞭然です。
矢野:自分が子どもの頃に親の運転する車の中で流れていた曲を大人になってもよく覚えていて、自然と口ずさんでしまうように、自身が育ってきた環境、音楽は今にもいろいろな影響を与えている気がします。『Back of My Mind』を聞いてから『Supernatural』を聞くと、また新しい発見がありそうです。
ゆりこ:そしてさらに探っていくと面白い事実が分かりました。韓国で初めてニュージャックスウィングを取り入れてヒットさせたアーティストもイ・スマンさんに縁の深い人たちでした。
矢野:あれ? H.O.T.とS.E.S.ではなく?
ゆりこ:スマンさんが初期にプロデュースしていた歌手ヒョン・ジニョンさん、そしてSM所属のアーティストではありませんがDEUX(デュース)という2人組が先に1990年代前半にデビューして、ニュージャックスウィングを取り入れた楽曲を発表していたそうなのです。DEUXはヒョン・ジニョンさんのバックダンサー出身。メンバーのイ・ヒョンドさんは後に韓国のトーク番組でスマンさんから受けた影響について語っています。
DEUXの曲は今でもSpotifyで聞けますし、YouTubeに当時の映像が上がっています。私も今回お話しするにあたって見てみたのですが、1990年代前半にこういった曲とダンスはなかなかセンセーショナルだっただろうなと予想できます。
矢野:ちょうど日本でSMAPが若手アイドルとして活躍していた頃、韓国でもそういった音楽をやっていたアーティストがいたんですね。しかもまさかのスマンさんにゆかりのある人たち。いわゆる“ザ・SMミュージック”とは対極のスタイルなのが意外です。
ゆりこ:面白いですよね。そしてニュージャックスウィングの特徴的なステップ、韓国語では「うさぎダンス(トッキ チュム)」って呼ぶそうなんですよ。ただの偶然かもしれませんが、うさぎがモチーフのNewJeansにピッタリすぎませんか?
矢野:うさぎたちによるうさぎダンス。まさにNewJeansが挑戦すべきジャンルだったんですね(笑)。ミュージックビデオの中でもけがをしたヘインさんの代わりに、うさぎの仮面をかぶったダンサーさんが踊っていました。
ゆりこ:ミュージックビデオの雰囲気もレトロでかわいいですよね。昔のカラオケみたいな質感の映像からスタートして。あと、最後に付け加えておきたいのがYGエンターテインメントの創業者、ヤン・ヒョンソクさんが所属していた「ソテジワアイドゥル」というグループもK-POPにブラックミュージックを取り入れた存在として外せないということです。“餅ゴリ”でおなじみJ.Y. ParkさんもアメリカのR&B、ソウルを韓国風に体現したアーティストです。いずれにしてもK-POPとブラックミュージックは切っても切り離せない関係にある。
K-POPは最高においしい「ビビンバ(混ぜご飯)」説
矢野:ということは、NewJeansの新曲はJ-POPからの影響というより、アメリカの影響を受けた昔のK-POP由来ということなのでしょうか? これまでの話を聞く限り。
ゆりこ:うーん。昔のアメリカ、韓国の要素はベースにあるとして、日本の要素もゼロだとは言い難い。日本デビュー曲ですしね。ブランディングが緻密で巧みなADORのことですから、市場との親和性はきちんと考慮しているでしょう。そして今回のNewJeansに限った話ではありませんが、DEUXの前には日本の少年隊を参考に結成されたといわれるユニット「ソバンチャ(消防車の意)」がいました。K-POPの黎明期には少なからずJ-POPの影響があったと思います。彼らの曲、日本のバラエティ番組を通じて一時期はやったんですよ、『オジャパメン(原曲名:オジェパメ イヤギ)』って。覚えていますか?
矢野:ごめんなさい。僕、まだ赤ちゃんだったと思います。いや、まだ生まれていないかもしれません。
ゆりこ:……(しばし絶句)そうか、そうですよね。次回もK-POPとブラックミュージックの深い関係性についてお話ししようと思うのですが、アメリカの音楽の影響は第一にあると思います。そしてK-POPの土台を築いた1990年代の韓国アーティストの存在も無視できません。その上で、音楽市場の大きな隣国・日本のJ-POPが韓国でこっそり親しまれ、研究されていたのも否定できない事実。私の持論ですが、韓国はあらゆるビジネスにおいて「ビビンバ作りがうまい国」だと思っているんです。
矢野:ビビンバ? あのおいしい韓国料理の?
ゆりこ:そうです。「ビビンバ」は正確にいうと「ピビン(混ぜられた)+パプ(ご飯)」、つまり混ぜご飯なんです。韓国の文化、特にK-POPはあらゆる国や時代、ジャンルのカッコいい要素を集めて、混ぜて、そして最後に自国ならではのオリジナリティーを加えたり、余分なものを引いたりする。「素材集めと取捨選択」と「味付け」が天才的にうまい! 映画もドラマもファッションも、そうやって発展してきたように感じます。
矢野:その最先端がNewJeansなのかもしれませんね。楽曲そのものはもちろん、ミュージックビデオやファッションなどにも新しさと懐かしさを“同時に”感じます。そしていやらしくない程度に新旧が混ざっているのがすごい。幅広い年齢層に響いている要因のひとつかもしれません。
ゆりこ:せっかくなので、次回もK-POPの歴史について探ってみましょうか。私も知りたいことがまだまだあるので、リサーチしようと思います。
【ゆるっとトークをお届けしたのは……】
K-POPゆりこ:韓国芸能&カルチャーについて書いたり喋ったりする「韓国エンタメウォッチャー」。2000年代からK-POPを愛聴するM世代。編集者として働いた後、ソウル生活を経験。
編集担当・矢野:All Aboutでエンタメやメンズファッション記事を担当するZ世代の若手編集者。物心ついた頃からK-POPリスナーなONCE(TWICEファン)&MOA(TOMORROW X TOGETHERファン)。
※記事初出時、本文に誤りがありました。お詫びして訂正いたします(7月30日15時00分:編集部追記)