『数分間のエールを』で、クリエイターの想いを凝縮させた5つの魅力。細田守監督作との共通点も

クリエイターの情熱、いや“想い”を68分の上映時間に凝縮させた傑作アニメ映画『数分間のエールを』。この夏に新作の発表がない、細田守監督作品が好きな人にも大推薦できる理由があったのです。(C)「数分間のエールを」製作委員会

5:先輩は細田監督、そして共通する「入道雲」のモチーフ

この『数分間のエールを』を世に送り出したHurray!のメンバー“ぽぷりか”“おはじき”“まごつき”による3人は、共に金沢美術工芸大学の卒業生。そして、同じく金沢美術工芸大学を卒業した、3人の「先輩」にあたる人物が細田守監督なのです。

今回の『数分間のエールを』では副監督を務めたおはじきは特に、コメントやX(Twitter)の発言から、細田監督の大ファンだということが伝わってきます。

そして、細田監督作品によく登場するモチーフは「入道雲」。同様に、『数分間のエールを』でも入道雲が印象的な場面で登場しているのです。
数分間のエールを
(C)「数分間のエールを」製作委員会
入道雲に「託した」ことについて、細田監督はこう語っています。

入道雲というのは小さな雲がもくもくとだんだん立派に成長していく。映画のほうも主人公がささやかな一歩かもしれないけれどちょっと成長するとか、前に進むとか、そういうことを入道雲が大きくなっていくさまにいつも象徴的に託しているようなところがあります。

※『ユリイカ2015年9月臨時増刊号 総特集=細田守の世界』(青土社)20〜21ページより

この細田監督の言葉通りの「少し成長する」「前に進む」物語は、今回の『数分間のエールを』にも通じていることでした。

そして、『数分間のエールを』のアートディレクターを担当したまごつきによると、「自分よりずっと遠く先を行く到底叶わない相手」を示すモチーフとして、物語の大事な場面では入道雲を登場させたそうです。
細田監督が入道雲に託したものとは異なるようで、入道雲に「これから」を見据えることは一致しているようにも思えます。ひょっとすると、Hurray!の3人にとって偉大な先輩である細田監督を、この入道雲へ投影しているところもあるのかもしれません。

その上で、本作へ細田監督が寄せたコメントを振り返ってみましょう。

短編を作っている奴はたくさんいるけど、
そこから中編映画を作るチャンスを
掴む奴はなかなかいない。
よくたどり着いたな!すげえぞ!
俺もそうだったな。
応援してくれる人たちの信頼を得ることができたら、
次は長編映画を目指すといいよ。
楽しいぞ!


細田監督は1999年に『劇場版デジモンアドベンチャー』で映画監督としてデビューし、そちらは20分の短編。監督2作目の『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』は40分の中編でした。

その後、細田監督は『ハウルの動く城』の降板後に問題作『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』を手掛けたこともありましたが、2006年の『時をかける少女』が口コミによる異例のロングランヒットを記録。さらに2009年の『サマーウォーズ』では16億5000万円の興行収入という大ヒットを記録しました。

そのようなキャリアを経て、国民的な作家となった細田監督。Hurray!の3人が同様の道を進むかどうかは分かりませんが、MV制作を経て、尋常ではない時間も根気も必要な、そしてハイクオリティの68分の中編(長編ともいえる)を手掛けた若いクリエイターに対して、細田監督が「俺もそうだったな」と振り返り、そしてエールを送ることにも納得できるのです。

その細田監督へのリスペクトも間違いなくある本作は、タイトル通りに「(MVの時間の)数分間のエール」を、ものづくりをしている人に限っていない、全ての人へと届けるべく、全力で作り上げた作品でした。

さらに、作品の舞台が震災で巨大な被害を受けた石川県であり、監督のぽぷりかからのメッセージが公式Webサイトに掲載されています。そのエールが、より多くの人に届くことを願っています。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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