世界を知れば日本が見える 第46回

「iPhoneに盗聴されている気がする」会話内容が広告表示されるのは“錯覚”か。デジタル広告の正体とは

iPhoneで通話をした後、会話の内容にマッチしたデジタル広告が表示された経験はないだろうか。ちまたでは、盗聴説もささやかれているが、現実としてそれはあり得るのか。デジタル広告の仕組みと実態を探る。

「新宿までタクシーで何分かかる?」知人ではなくSiriが反応

今回の話で、もう1つ注意すべきなのは、SiriやGoogle Assistantなど音声操作ができるガイダンスのアプリだ。
 
先日、Apple Watchを着けている知人とタクシーに乗っているときに、こんなことがあった。移動中の車内の会話で、行き先までどれくらい時間がかかるかな、と筆者が言うと、知人ではなくSiriが反応し、「ご用件は何でしょうか」と反応したのである。そこで「新宿までタクシーで何分かかる?」と質問すると、すぐに答えを教えてくれた。
 
何が言いたいかというと、こうしたアプリは私たちの会話を聞いていて、反応するための「トリガー」を聞き逃すまいとしているのだ。そしてユーザーの要求に応じて、オンライン上で検索した情報を代わりに調べてくれる。ただこうしたやりとりや検索などの記録は、ほぼApple Watchやスマートフォンに接続されているアカウントの元に記録される。この際に別のアプリに接続などすると、その情報が広告に使われる可能性がある。
 
これを避けるためには、SiriやGoogle Assistantなど音声ガイダンスのアプリを停止すること。iPhoneやAndroidでは設定からマイクもオフにできるので、オフにしておくことも一案だろう。使うたびにオンとオフを切り替える設定にすることもできる。

LINEは、チャット内容を監視しているのか

さらに筆者がよく聞かれるのは、LINEなど無料通信アプリがチャット内容を見ているのではないかということだ。最近では暗号化が強化されているので基本的にチャットのメッセージや電話の内容がアプリ提供者に見られたり、聞かれたりしている可能性は低い。ただ、通話やチャットが行われた記録や位置情報など、ほかのデータは収集されているし、そこから別のアプリと接続して利用すると、その辺りのデータも収集される。結果、こうしたデータがひも付けられていくと、何らかのユーザーに関連した広告が表示されることになる場合もある。
 
もはや、これを1つ1つ気にしていたら、デジタル世界には暮らせない。ある程度の覚悟が必要になるということだろう。

スマートフォンは、所有者以上にその人を“把握”している

私たちは、人類史上もっともデジタルデバイスで接続された社会に暮らしている。そしてそのデバイスにアクセスできれば、個人の人間関係から居場所、趣味趣向などさまざまな情報を知ることができる。今やスマートフォンは、所有者である私たち自身よりも、私たちのことを知り、把握していると言ってもいい。デジタル世界には、自分以上に自分のことを知っている“自分”が存在しているということだ。
 
例えば、20日前のランチのメニューは思い出せなくとも、スマートフォンをまめに使う人ならスマートフォンが教えてくれるだろう。その日に家族や友人とやりとりしたメッセージや、コンビニでデジタル決済を使って買った食品や、位置情報などを振り返り、何を食べたかを自分なりにひも付けすれば、思い出せる可能性が高い。
 
そして、そうしたデータを知ることができれば、かなり効果的な広告を出すことができる。ユーザーに電話の会話が盗聴されていると錯覚させるほど、“効果的に”である。
 
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル
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