ヒナタカの雑食系映画論 第97回

『マッドマックス:フュリオサ』の8つの魅力。前作とは異なる評価軸、強化されたフェミニズムの精神とは

『マッドマックス:フュリオサ』 の8つの魅力を解説しましょう。「スピンオフ作品としてこれ以上のものは考えられない」理由ばかりなのです。(※サムネイル画像出典:(C) 2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. )

4:アニャ・テイラー=ジョイの「眼光」

今回のフュリオサを演じたのは、実写映画『スプリット』や『ラストナイト・イン・ソーホー』のほか、アニメ映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』ではピーチ姫の声も担当したアニャ・テイラー=ジョイです。

前作で同キャラクターを演じたシャーリーズ・セロンは、屈強な女戦士だと心から思える風格を見せながらも、わずかな表情の変化で恐怖や寂しさの感情も伝える、豊かで複雑なキャラクターを余すことなく表現していました。その若き日の姿を演じるアニャに求められるハードルは、並大抵のものではなかったでしょう。
フュリオサ
(C) 2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
今回のアニャで注目してほしいのは「眼光」。前作同様に極めて口数が少ないキャラクターで、実際に映画でのセリフは30行ほどだったそう。しかし、長い間抑圧を受け続け、さらに「戦い始めて間もないからこその未熟さ」「それでも揺るぎない意思」の両面を、アニャという俳優その人が持つ「目の強さ」から感じられるのです。

アニャはこれまでの出演作でも、抑圧的な社会で生きる女性の役柄を数多く演じてきました。今回はそのキャリアの集大成ともいえる、「不屈の精神」そのもの体現したキャラクターを演じきっており、感慨深いものがありますし、だからこそ感情を強く発露させる場面の印象もまた「強い」ものになっているのです。

もちろんアニャはアクションにも果敢に挑んでおり、撮影が始まる1年前からスタントダブルと共にトレーニングを積んだのだとか。しかも、免許を持っていないまま、スタント学校の初日にJターン(直進走行している最中にハンドルを切り、一気に反対方向へと車体を向けること)を学んでいたりもしたそうです。

難役に対してベストを尽くしたことも間違いない、全編にわたる眼光の鋭さや、アクションでの身のこなし、「ここぞ」という時のアニャの演技にもぜひ注目してください。

5:いい意味で器の小さい悪役のクリス・ヘムズワース

今回のもう1人の主人公といえるのは、悪役であるディメンタス将軍。彼は初めこそ理性的かつ残虐な印象がある、恐るべき存在にも思えるのですが……徐々に「情けない」印象も覚えるようになっていくキャラクターでした。

もちろん、その悪役像も意図的なもの。前作であれだけのカリスマ性に満ちた(今回も登場する)イモータン・ジョーと対照的な印象そのものが面白く、「フュリオサを自身の娘として支配しているようで全くできていない」などの種々の場面から、いかに薄っぺらな人物であるかが伝わってくるのです。
フュリオサ
(C) 2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
そんなディメンタス将軍は(映画冒頭で極めて悪逆的な行いをしている、主人公にとって本当に憎むべき相手にもかかわらず)、その情けなさも含めてチャーミングに思えてもくるでしょう。演じているのは『マイティ・ソー』シリーズのヒーローでもおなじみのクリス・ヘムズワースで、その人間臭さ、もっといえば精神的な弱さが、「悪」に転じれば、ここまで器の小さい存在にも映るというのも興味深いのです。

そんな悪役をクリス・ヘムズワースがめちゃくちゃ楽しそうに演じていることに笑顔になれますし、彼自身が「リーダーシップをとる立場にある人の多くは、ある種の威圧的な支配力があるものだが、彼は全く逆で、思いやりと寛容さ、協調性をもって指導にあたってくれる」とディメンタス将軍について語っており、確かにその通りの親しみやすさや、なんだかんだで部下に慕われる程度のカリスマ性もあるのだと、納得できたりもするのです。

6:『北斗の拳』の逆オマージュ的なセリフも?

余談ですが、『マッドマックス2』が日本の漫画『北斗の拳』(集英社)に強い影響を与えていることはよく知られており、その『北斗の拳』には「お前はもう死んでいる(You're already dead)」という有名なセリフがあります。
フュリオサ
(C) 2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
詳しいシチュエーションはネタバレになるので秘密にしておきますが、その「お前はもう死んでいる」の「逆オマージュ」かもしれない(?)、とても似ているけど、意味自体は正反対ともいえるセリフを、ディメンタス将軍が口にするのも、また興味深いものがありました。
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『フュリオサ』の物語は、『怒りのデス・ロード』の時にすでに作られていた
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