アスリートの育て方 第11回

3万円を手渡し「頑張って来いよ」。破天荒すぎる父が中学生だった元日本代表・城彰二に課した極貧サバイバル生活

トップアスリートが「どんな親のもとで育ったのか」、そして「わが子をどんな教育方針のもとで育てているのか」について聞く連載【アスリートの育て方】。元サッカー日本代表の城彰二はどのような両親のもとで、どう育ったのか、話を聞いた。

強制送還先は、なぜか鹿児島。父は「バレたな」

学校から呼び出されるのは、自信を深めつつあった中2の夏だった。
 
「ご両親のもとに帰りなさいって。強制送還ですよ(苦笑)。ここでもっともっとうまくなれると思っていた矢先だったので、本当にショックでしたね」
 
しかも強制送還先は室蘭ではなく、なぜか鹿児島だった。体調を崩した父方の祖母の面倒を見るため、城には知らせず、いつの間にか一家は鹿児島に移り住んでいたのだ。
 
「本当に島流しですよ。何が何だか分からないまま飛行機に乗って、鹿児島空港に着いたら迎えに来ていた父が一言、『バレたな』ですからね(苦笑)」
 
もちろん鹿児島でもサッカーを続けるつもりだったが、転校した姶良(あいら)市立加治木中学のサッカー部は部員が13人ほどしかいない弱小で、そのほとんどが練習中も学校支給の白い運動靴と体操服といういでたち。絶望した城は、父親に「もうサッカーを辞めたい」と申し出る。
 
「またぶん殴られましたよ(笑)。お前は約束を破るのか? 環境のせいにしてプロになることを諦めるのか? って。そう発破をかけられて、ここで自分ができるだけのことをやってみようって、もう1度火をつけてもらった感じでしたね」

「世界に羽ばたけ」父が決めた鹿実への入学

幸運だったのは、チーム内に「横山くん」という、ただ1人ずば抜けてうまい同級生がいたことだ。「この子と一緒にやっていけば、何とかなるかもしれない」との見立て通り、3年生の鹿児島県大会では、俊足ウイングの「横山くん」のセンタリングを城が得意のヘディングで決める黄金パターンで勝ち上がり、なんと優勝してしまうのだ。もちろん同校史上初の快挙。鹿児島代表として出場した九州大会は早期敗退となったが、それでも城彰二の名は一気に広まり、世代別の日本代表候補にも選ばれるようになる。
 
進路を決める頃には、帝京の古沼貞雄監督、国見の小嶺忠敏監督(いずれも当時)といった高校サッカー界の名将たちが、わざわざ実家まで足を運んでくれた。城自身は「カナリア色のユニフォームと長髪に憧れて」帝京に行きたかったそうだが、しかしすでに彼の進学先は、地元の強豪・鹿児島実業(鹿実)に決まっていた。決めたのは、父だ。
 
「なんの相談もなく、勝手にですからね。さすがに反発しましたけど、『この地元・鹿児島から世界に羽ばたけ』って。まあ、僕の地元じゃないんですけどね(笑)」
 
鹿実行きの決め手になったのが、城にとっては「神様みたいな人」だった2歳上の前園真聖からの勧誘電話だというのは有名な話だが、それが鹿実の松澤隆司監督(現総監督)に渡されたメモ書きのメッセージをそのまま読んだものだったというのも、よく知られたエピソードだ。
 
こうして進学した鹿実で、さらに名声を高めていく城。海外でプロになることを真剣に考え、父親の勧めで英会話教室にも通っていたが、そんな折、高校3年生だった1993年にJリーグが発足する。日本でプロになる道が、城親子の前に突如として開けた。

>>>後編に続く


城彰二(じょう・しょうじ) プロフィール

城彰二さん
自身のYouTubeチャンネル『JOチャンネル』が話題の城彰二さん

1975年6月17日生まれ。北海道室蘭市出身。鹿児島実業高時代から名をはせ、卒業後の1994年、ジェフユナイテッド市原(現・ジェフユナイテッド千葉)に入団。1997年に移籍した横浜マリノス(現横浜F・マリノス)でも中心選手として活躍し、2000年1月、スペイン1部レアル・バリャドリードへ。翌年に横浜へ復帰し、その後ヴィッセル神戸、J2の横浜FCに在籍。1996年にはアトランタ・オリンピックに出場し、「マイアミの奇跡」と呼ばれるブラジル戦の勝利に貢献。A代表のエースとして1998年フランスW杯にも出場した。2006年12月の引退後は、サッカー解説者をメインに、2013年秋に開校したインテルアカデミー・ジャパンのスポーツディレクターや、故郷・北海道の社会人チーム「北海道十勝スカイアース」の統括ゼネラルマネージャーなど、幅広い分野で活躍する。また、YouTube『JOチャンネル』のパーソナリティーとしても人気を博す。

この記事の執筆者:吉田 治良 プロフィール
1967年生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。2000年から約10年にわたって『ワールドサッカーダイジェスト』の編集長を務める。2017年に独立。現在はフリーのライター/編集者。

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