『耳をすませば』の月島雫が大人になってから書いた物語
『猫の恩返し』はスタジオジブリ作品『耳をすませば』の主人公である「月島雫が書いた物語」という設定のスピンオフ。原作者である柊あおいは「『耳をすませば』の時よりも雫は成長して、かつて書いた“(猫の)バロンが旅をする物語”を書き直しているのではないか」「大人になった雫が書いたものという風にしよう」と考えていたのだとか。そんな『猫の恩返し』の内容は、かわいい&かっこいい猫たちと冒険を繰り広げる、ギャグも多めで明るくて楽しい、スタジオジブリでは異色といえるもの。『耳をすませば』劇中の月島雫は中学3年生の受験生で「焦っている」中で物語を書いていたのですが、今度は大人になってから余裕を持って書いたからこそ、そうした作風に仕上がったという解釈も可能でしょう。 いい意味で「どこかのんびりとしていて、危機的な状況でもなんだかゆるい」感じは、疲れがちな現代人に響くでしょうし、それこそ猫の「自由気まま」な印象ともシンクロしていて、なおかつ「心のスキマにつけ込まれてしまう」怖さがちょっとだけ描かれているのも、いいあんばい。「あー楽しかった!」と見終えることができるのも、この『猫の恩返し』が愛され続ける理由なのは間違いありません。 さて、ここからは『猫の恩返し』が好きな人にもおすすめしたい、2020年以降に公開された最新「猫映画」おすすめ5作品を紹介しましょう。癒し効果たっぷりの猫を眺めることは、5月病の対策にもなるかもしれませんよ。
1:『泣きたい私は猫をかぶる』(2020年)
Netflixオリジナルのアニメ映画で、『猫の恩返し』ととても近い精神性を持っています。その理由の筆頭は、「猫は気楽でうらやましいなあ」という多くの人が抱く感情を、本当に猫へと変身するファンタジーをもって描いていること。だけど、そうした「現実逃避」はやはり根本的な解決にはならないし、猫のまま過ごすことで「元の姿に戻れなくなるかもしれない」という危険性まで示しつつも、猫として気ままに駆け回る様がとても魅力的に描かれています。
同じくNetflixで配信中の『アリスとテレスのまぼろし工場』では監督も務めた岡田麿里の脚本らしい、エキセントリックな主人公像や、クセの強いあだ名やセリフ回しは、ある程度は好き嫌いも分かれるでしょう。でも、その作風だからこそ描かれる、周りとは違う「変人」であることは実は普遍的で、それこそ思春期の少年少女が持ちうる当たり前の悩み。そこに寄り添う作り手の優しさを大いに感じたのです。
なお、制作を手がけたのは『ペンギン・ハイウェイ』や『雨を告げる漂流団地』のスタジオコロリドで、その最新作『好きでも嫌いなあまのじゃく』が5月24日よりNetflixで独占配信&一部劇場で公開予定です。2024年に続々と公開されるアニメ映画の1つとして、とても期待をしています。
2:『長ぐつをはいたネコと9つの命』(2023年)
誰もが楽しめるアニメ映画の理想型だと太鼓判を押せるのがこちら。『スパイダーマン:スパイダーバース』を彷彿(ほうふつ)とさせる、コミックの質感に近いビジュアルと、冒頭から繰り出されるダイナミックなアクションに目がくぎ付け。三つ巴(またはそれ以上の)お宝争奪戦は子どもにも分かりやすく、「はみ出し者」たちが人生の目的を見つける物語は大人にこそ響くのではないでしょうか。
中でも主人公のプスは「命知らずで無鉄砲なヒーロー」だったのですが、「9つの命のうち8つまでを使い切って次に死ぬとアウト」な状況になり、すっかり臆病になって「隠居生活」をする様は身につまされます。だからこそ彼が愛おしくなるし、悲惨な状況にいても常にポジティブシンキングで不憫な「ワンコ」も応援したくて仕方がなくなるはず。敵である「死神」のオオカミ(声:津田健次郎)がものすごくかっこよく、かつ怖いのもたまりません。Amazonプライムビデオで見放題配信中です。