学級委員を引き受けたら、続いて……
こうして「免除の儀式」は回避できたのですが、とはいえその場で急に、委員の選び方や人数を変えることもできません。やはり、ここは誰かが委員をやらざるを得ない……。タツヤさんは自ら手を上げ、学級委員を引き受けることに。すると、先ほど「仕事がある」といった保護者も手を上げ、一緒に委員をやってくれることになりました。そうした言動に、思うところがあったのでしょうか。すぐ近くに座っていた保護者も口を開きました。PTAについての何の説明もなく、会員として扱われているのはなぜなのかと、疑問を呈したのです。
「同じように思っている人は何人かいるんだな、と思って少し感動しました。役員決めが始まったら、みんな急にしんとして、担任の先生も黙っているし、『これはちょっと違うよな』と思って。でも思うことを言ってみたら、意外と賛同してくれる方もいることが実感できて、面白かったです」
いい話だなぁ、と思って聞いていたら、さらに続きがありました。
最後に口を開いた保護者も残りの委員を引き受けて、委員決めは無事終了。タツヤさんは帰り際、学級委員を引き受けたもう1人の保護者から、先ほどの熱弁についてお礼を言われたということです。
その後もタツヤさんはPTAや校長、教育委員会に働きかけを続け、「入会届の整備」「個人情報の正しい取り扱い」「PTA会費と学校徴収金の切り分け」「PTAに入らない家庭の子どもに不利益がないことの周知」などに取り組んだということでした。
みんながやり過ごしてきたPTAの問題点
旧来型のPTAには、見直しが必要な点がいろいろとあります。そもそも「必ず○人」という委員の人数設定がおかしく、「できない理由」を言わせるのも問題ですが、でも長い間、それを指摘する人はわずかでした。ほとんどの人が心の中で「なんだこれ」と思いながら、PTAをやり過ごしてきたのです。でもこのままでは状況はいつまでも変わらず、次の保護者がまたいやな思いをすることになります。
筆者が取材を始めた10年前と比べると、少しずつではありますが、PTAやそれを取り巻く空気は変わってきました。それは間違いなく、それぞれのPTAや学校で声をあげてきた保護者(役員さんも非会員も含む)や教職員の人たちの功績でしょう。タツヤさんのように、ちょっと勇気を出して発言できる人が増えてくれたらいいな、と思います。
この記事の執筆者:大塚 玲子 プロフィール
ノンフィクションライター。主なテーマは「PTAなど保護者と学校の関係」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』『PTAでもPTAでなくてもいいんだけど、保護者と学校がこれから何をしたらいいか考えた』ほか。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。