ヒナタカの雑食系映画論 第80回

『魔女の宅急便』の「あたしこのパイ嫌いなのよね」の意味を徹底考察。少女は果たして“悪い子”なのか

アニメ映画『魔女の宅急便』で地上波放送のたびに話題になるセリフ「あたしこのパイ嫌いなのよね」について解説・考察します。「実は悪い子ではないのでは?」と思えることも重要なのです。(サムネイル画像出典:(c)1989 Eiko Kadono/Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, N)

仕事への感謝と善意を示す老婦人の優しさ

さらに、老婦人は再びキキに届けものを頼むという体裁で、「それ(ケーキ)をキキという人に届けてほしいの、この前とってもお世話になったから、そのお礼なのよ」「ついでに、その子のお誕生日を聞いて来てくれるとうれしいんだけど。またケーキを焼けるでしょう?」とも言ってくれました。

魔女の宅急便
ここで示されるのは、キキのお届けものの仕事に対する善意です。老婦人は事前にキキの好みを聞いたりはしておらず、ともすれば表面的にはパイを嫌がる孫への対応にも似た、一方的な行動かもしれません。それでも「仕事をしてくれた」ことそのものへの感謝を、「仕事を通じて」示してくれた老婦人のこの言葉は、キキにとってどれだけうれしかったでしょうか。

仕事でスランプに陥っても、きっと大丈夫

また、絵描きの少女ウルスラが、急に空を飛べなくなるという「スランプ」に陥ったともいえるキキに対して、「描いて、描いて、描きまくる!」「(それでもうまくいかなかったら)描くのをやめる。散歩したり、景色を見たり、昼寝したり、何もしない。そのうちに急に描きたくなるんだよ」という言葉は、才能を生かした仕事に就くも、悩んだり壁にぶつかったりした人にとっての金言となり得るでしょう。

魔女の宅急便
総じて、『魔女の宅急便』は「仕事で落ち込んだり、自身の才能について悩んだりしても、きっと大丈夫」だと言ってくれる、優しい作品だとも思うのです。
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先輩魔女も実はいい人?
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