沢尻エリカが復帰舞台『欲望という名の電車』で見せた、“儚い”だけではない新ブランチ像

キャンセル待ちの列ができるほどの大入り満員となった、沢尻エリカさんの約4年ぶりの復帰作の舞台『欲望という名の電車』。上演が発表された際には、「あのブランチ役を沢尻さんが!?」と驚きの声があがった舞台を振り返ります。

“全て”をひっくり返した!? ラスト

※以下、結末への言及を含みますのでご注意ください※
 
しかし、幸せな時間はあっという間に終焉(しゅうえん)。スタンリーはブランチの驚くべき“正体”を暴き、全てを奪いにかかります。

沢尻ブランチはどこまでも強気を崩さず、張りのある声で自分のストーリーを主張し続けますが、関西弁でまくしたてる伊藤スタンリーの口調におされ、劣勢に。彼のさらなる残酷な仕打ちによって心身ともに傷つき、“正気を失った”として彼らの世界から文字通り“強制退場”させられていきます。

はじめこそ滑稽味すら漂わせ、キラキラと登場したものの、物語が進むにつれ強がれば強がるほど、(戯曲にあるように)“蛾のような繊細さ”が際立っていった沢尻ブランチ。彼女の“敗北”をもって物語は終わり、舞台は姉と夫の間で板挟みになったステラのむせび泣きで締めくくられます。
欲望という名の電車
『欲望という名の電車』
……と思いきや、今回の『欲望という名の電車』には、最後の最後にサプライズが。手前から舞台奥に向かって沢尻ブランチが歩いていく光景が描かれるのですが、この時、彼女がふと立ち止まり、客席に向かって振り向くと“ある表情”をしてみせたのです。
 
ほんの1、2秒の表情でしたが、それはそこまでの流れを全てひっくり返し得るものでした。
 
もしや気のせいなのか、主催側に確認したところ、確かにその表情はしていたが、意図については限定されていない、とのこと。観た人に解釈を委ねているようでしたが、少なくとも今回のブランチが、従来の“現実社会の中で押しつぶされていく、繊細な魂”の象徴として終わることはありませんでした。
 
通常は痛ましさや苦すぎる余韻に包まれる本作に、不思議な“光”が差し込んでいたのは、鄭さんの演出もさることながら、3時間の“死闘”を意外な(?)スタミナで乗り切り、その最後にこうした表現ができる沢尻さんあってのことでしょう。そうした意味では、開幕前に意外性ばかりが注目された本作と彼女の組み合わせは、大当たり! と言えるものだったのかもしれません。

<公演情報>
欲望という名の電車』2月10~18日=新国立劇場中劇場、2月22~25日=森ノ宮ピロティホール
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