ヒナタカの雑食系映画論 第74回

スパイ映画は『007』だけじゃない。荒唐無稽?それともリアル?魅力にあふれたスパイ映画6作を選出

おすすめの「いい意味で荒唐無稽なスパイ映画」3作品と、「とことんシビアでリアルなスパイ映画」3作品を、それぞれを一挙に紹介しましょう。『007』や『ミッション・インポッシブル』シリーズとはまた異なる魅力がありますよ。(サムネイル画像出典:(C) Universal Pictures)

とことんシビアでリアルなスパイ映画1:『ブリッジ・オブ・スパイ』(2016年)

アメリカとソ連(現在のロシア連邦の前身)における冷戦下の実話を元にした映画で、人質交換のために交渉をする主人公が、自身にとって「縁もゆかりもない学生」をも救おうとする物語です。そのプロセスはなかなかに複雑なのですが、理路整然とした語り口もあって、混乱せずに見られるでしょう。派手な展開やアクションはほぼ皆無ながら、一進一退の駆け引きや、皮肉に満ちた会話劇の面白さに満ちていました。

主人公が正義感にあふれているだけでなく、少しだけ「めんどくさがり」な弱点を見せたりもすることも、むしろ魅力的に見えてきますし、スティーブン・スピルバーグ監督らしいヒューマニズムに満ちた「信念」が描かれていたことに感動があります。主役のトム・ハンクスはもちろん、老スパイを演じていたマーク・ライランスの演技も強い印象を残すでしょう。

とことんシビアでリアルなスパイ映画2:『クーリエ:最高機密の運び屋』(2021年)

経験ゼロのセールスマンがスパイに任命される実話を描いた作品です。表向きは単なる出張ながら、裏でスパイ活動をしていくうちに協力者と友情に似た信頼が生まれたり、妻との関係がギクシャクしたりと、「スパイなのに庶民的」な様子が親しみやすく思えるでしょう。スパイ活動や作戦そのものは「あっさり」で、ともすると地味にも見えてしまう一方、「実際のスパイもこんなものなんだろうな」というリアリズムにもつながっていました。

ほのぼのとしたシーンがあったり、家庭の危機が半ばブラックコメディー的に描かれる一方で、主人公の活動は「スパイであることがバレたら(すぐに殺されなかったとしても)拘束される」危険なもので、「世界の運命を握っている」ことも事実。それを踏まえての終盤の過酷な展開と、主演のベネディクト・カンバーバッチの熱演を忘れることができません。

とことんシビアでリアルなスパイ映画3:『スパイの妻 劇場版』(2020年)

NHK BS8Kで放送されたドラマをスクリーンサイズや色調を新たにした劇場版で、ベネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞するなど高い評価を得た作品です。物語は「夫は恐ろしい国家機密を公表しようと画策する」「妻はある決意を胸に行動を起こす」という関係をスリリングにつづったもの。アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督が脚本に参加していることもあり、会話劇の1つ1つに緊張感があります。

確かな信念を持つ夫役の高橋一生、精神的に追い詰められていく妻役の蒼井優、裏切り者に容赦なく制裁を与える軍人役の東出昌大と、主要キャストの演技力も圧巻。ホラー作品も多く手掛けてきた黒沢清監督ならではの「暗がり」を意識した画も見応えがあります。実際のスパイ活動にまつわるシビアで現実的な視点がありながらも、フィクションならではのあっと驚くサプライズも備えていました。

さらに、シビアでリアル寄りのスパイ映画では、以下もおすすめですよ。

『マリアンヌ』(2017年)……運命の出会いを果たした男女が、過酷な時代に翻弄(ほんろう)されつつ、秘密を抱えながらも究極の愛を試されます。
『誰よりも狙われた男』(2014年)……名優フィリップ・シーモア・ホフマンの最後の主演作で、リアルな諜報(ちょうほう)活動での心理戦が展開します。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
 
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