ここでは「いい意味で荒唐無稽なスパイ映画」と「とことんシビアでリアルなスパイ映画」に分けて3作品ずつ、合計で6つのおすすめスパイ映画を紹介しましょう。
いい意味で荒唐無稽なスパイ映画1:『ARGYLLE/アーガイル』(2024年3月1日より劇場公開)
『キングスマン』シリーズで、まさに荒唐無稽寄りのスパイ映画を手掛けてきたマシュー・ヴォーン監督最新作です。あらすじは、ベストセラー小説の作者が突如として襲われるものの本物のスパイに助けられ、さらに小説の内容が偶然にも現実のスパイ組織の行動と一致していたと教えられるというもの。
女性が突如としてスパイの男性と行動を共にする流れは、2010年のアクションコメディー映画『ナイト&デイ』に似ています。さらにギミックとして面白いのは、劇中のスパイ小説の内容が妄想として展開しつつ、現実でのスパイ組織との戦いと交錯していくこと。 その妄想の中で凄腕スパイを演じるのは、2013年の『マン・オブ・スティール』のスーパーマン役で知られるヘンリー・カヴィル。その絵に描いたようなマッチョでイケメンなその姿は、出演シーンこそ少ないものの、ものすごいインパクトがあります。この役は、ヘンリー・カヴィルが2006年の『007/カジノ・ロワイヤル』のジェームズ・ボンド役の最終候補者だったものの、若すぎる(当時22歳)ために選ばれなかった過去を踏まえたものでもあるのでしょう。
対して、現実でのスパイの男性を演じるのは2018年の『スリー・ビルボード』などのサム・ロックウェルで、いい意味で(妄想のヘンリー・カヴィルとのギャップもあり)頼りなく思えるものの、主人公との関係性が変化していく様もまた魅力的。そのアクションシーンはマシュー・ヴォーン監督らしくキレキレで、終盤の斬新なアイデアそのものにも感動がありました。 「一流スパイは世界をダマす。」というキャッチコピー通りの、観客の予想を覆す二転三転する作劇も実に楽しませてくれるので、ネタバレを踏む前に早めに劇場で鑑賞していただきたいです。
いい意味で荒唐無稽なスパイ映画2:『355』(2022年)
豪華な女性キャストたちによる、直球にして王道のスパイアクション映画です。物語は「第三次世界大戦を阻止するため秘密兵器を奪還する」とシンプルながら、序盤から提示される意外にシビアな舞台立て、ギミック満載のバイクチェイスなど見どころは多数。タイトルの『355』は実在したとされる女性スパイのコードネームに由来しており、そこから女性の活躍や連帯を強く打ち出しているのです。
「優秀だが実はちょっと怒りっぽくて乱暴な主人公」や「家族との平和な日々に幸せを感じる心理学者」など、個性豊かなキャラクターが魅力的で、きっと見た人それぞれの「推し」ができるでしょう。男性との関係性が「単純な恋愛だけに落とし込まない」「それでいて男性を過度に貶めることもない」バランスであることも、多様性を推した現代の映画らしいポイントです。
いい意味で荒唐無稽なスパイ映画3:『コードネームU.N.C.L.E.』(2015年)
1960年代のテレビドラマ『0011ナポレオン・ソロ』の映画リメイクです。何よりの特徴は正反対の性質を持つ男性2人の「バディもの」であること。「大人の余裕をひょうひょうと見せる」「超マジメだけど情緒不安定なところもある」2人は初めこそ相性は最悪なのですが、そんなやりとりの“ひどさ”もまたコメディーへと昇華されていました。『スナッチ』や実写版『アラジン』などのガイ・リッチー監督らしい軽快な語り口や、ケレン味のあるアクション描写、スタイリッシュで凝った編集など、その作家性が全開に表れているのも大きな魅力。オープニングからフルスロットルの見せ場があり、主人公2人が人間離れした身体能力を見せたかと思いきや、その後には仲が悪すぎるために盛大に醜態をさらしたりと、ギャップのあるバラエティ豊かな展開で楽しませてくれます。
さらに、そのほかのいい意味で荒唐無稽寄りのスパイ映画では、以下もおすすめです。
・『SPY/スパイ』(日本では劇場公開なし)……まったくの素人だったふくよかな女性が頑張る様や、ジェイソン・ステイサムが本当に“バカ”に見えるコメディー場面が大きな見どころです。
・『マッシブ・タレント』(2023年)……ニコラス・ケイジが本人役で、大富豪と交友を深めていき、同時に彼へのスパイの任務の依頼を受けるという、「友達であると同時に敵」な関係性を描きます。