3:『Firebird ファイアバード』(2月9日より劇場公開中)
ロシアの無名の俳優の回顧録を映画化した、こちらも実話もののドラマです。舞台は冷戦時代のソ連占領下のエストニア。同性愛が激しく罰せられる状況のため、2人の主人公は軍内部で秘密裏に逢瀬をするしかなく、その後は離れた場所で別々の人生を歩むことになるのですが……お互いへの愛情を忘れられない2人は、さらに周りに明かしてはならない危険な関係へと踏み入れるのです。三角関係からの「間違っているけど愛情を信じてしまう」葛藤は感情移入しやすく、ちょっとした言動の1つ1つに「秘密の関係がバレてしまうかもしれない」ハラハラがあり娯楽性も高いため、LGBTQ+の映画を見たことがないという人にもおすすめできます。エンドロール後にも映像があるので、お見逃しなく。
4:『一月の声に歓びを刻め』(2月9日より劇場公開中)
北海道・洞爺湖の中島、伊豆諸島の八丈島、大阪・堂島という、3つの舞台で物語が展開するオムニバス映画。登場人物の心の傷がじわじわと明かされていく、時には性暴力がいかに精神を蝕(むしば)むかも鮮烈に突きつける内容で、特に3つ目の物語における前田敦子の長ゼリフによる「告白」に圧倒されました。娯楽性はごく少なく、とてもゆったりしたテンポで展開する、寒々としつつも美しい風景も見どころのアート系作品なので、劇場での鑑賞がベターでしょう。そして、1つ目の物語で性別適合手術を受けたことで知られるカルーセル麻紀がトランスジェンダー女性を演じる意義はとても大きいです。この役は当て書き(配役を決めてから脚本を書くこと)で、カルーセル麻紀本人は今回の役に共感していたわけではなかったもの、共演者と食卓を囲む時間を過ごし3日ほど経ってから「やっと何か分かってきた」と話したこともあったのだとか。自分の肉体の性別について憎しみを抱いているような、同時にとてつもない喪失感に囚われているようにも思える「独白」を、ぜひ聞いてみてほしいです。