昨年には日本のLGBTQ+の映画はまだまだ「過渡期」と感じたこともありましたが、第96回アカデミー賞アニメーション映画賞にノミネートもされた『ニモーナ』は革新的な内容でした。後述する通り、トランスジェンダーに誠実に向き合う姿勢が明確に表れた、当事者の関わりもある映画も公開されることも、ぜひ知ってほしいです。
1:『ネクスト・ゴール・ウィンズ』(2月23日より劇場公開)
実話を描いたスポーツ映画です。何よりの特徴は、誇張なしにチームが「世界最弱」であること。映画冒頭から、FIFAワールドカップ予選史上最悪となる0対31のボロ負けをするほどなのですから。その後は型破りな性格の鬼コーチがやってきて、『がんばれ!ベアーズ』や『クール・ランニング』などと同様に、弱小チームが奮闘する王道のスポ根映画となっていくのです。 そして、FIFAワールドカップ予選で世界初のトランスジェンダーのサッカー選手となったジャイヤ・サエルアがメインキャラクターとして活躍します。劇中では「ファファフィネ」という、サモア語で「第三の性」を意味する存在とされています。本作がデビュー作となる俳優・カイマナもまたファファフィネです。 そのファファフィネは、サモアでは伝統的に男性と女性の両方の性徴を体現していると認識され、ヒーラー、教師、スピリチュアル・ガイド、家族の保護者や世話人など、特定の役割のために崇拝されてきたのだそうです。ファファフィネの概念や向き合い方を知る上でも見る意義はありますし、劇中でジャイヤが自身の人生に向き合い、ファファフィネへの理解がなかったコーチもまた成長する物語にもなっています。 誰もが楽しめる内容の分かりやすさに加えて、『マイティ・ソー バトルロイヤル』や『ジョジョ・ラビット』などのタイカ・ワイティティ監督らしいコメディセンスも絶好調。クスクス笑いながら、愛すべきキャラクターたちを応援できるでしょう。「神経質な役をさせたら最高にハマる」俳優であるマイケル・ファスベンダーにも大注目です。2:『52ヘルツのクジラたち』(3月1日より劇場公開)
2021年本屋大賞を受賞した同名小説の映画化作品で、海辺の町にやってきた女性が、虐待を受けていた少年と出会う物語と並行して、家族に搾取をされる状況から助けてくれた友達との過去の関係が語られるドラマです。その友達というのが、志尊淳演じるトランスジェンダー男性。その言葉の1つ1つが、主人公にとっての救いになっていくことが分かります。ヤングケアラーや児童虐待にまつわる問題も考えるきっかけになるでしょう。志尊淳は、自分が演じることでトランスジェンダーを傷つけたり、ステレオタイプを助長したりしないかと不安を抱えていたものの、成島出監督の強い覚悟を聞き、またトランスジェンダーの当事者で、俳優として本作にも出演し、監修も務めている若林佑真と共に2人3脚で役に挑んでいたそうです。劇中の優しさの裏にある、とてつもない苦悩を余すことなく表現した志尊淳の演技を、見れば誰もが称賛するのではないでしょうか。精神的に憔悴(しょうすい)しきる杉咲花や、危うさを次第に見せていく宮沢氷魚の表現力にも圧倒されるはずです。