PDCAサイクルの意味とは? 時代遅れといわれる理由、回すポイントやメリット・デメリットを解説

Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の流れを表すPDCAサイクルは時代遅れといわれています。PDCAサイクルが古いといわれる理由やメリット、デメリットについて、現役フリーアナウンサー、日本語教師の阿部佳乃が解説します。

PDCAサイクルの意味とは? 時代遅れと言われる理由、回すポイントやメリット・デメリットを解説
PDCAサイクルの意味とは? 時代遅れといわれる理由、回すポイントやメリット・デメリットを解説

「Plan」「Do」「Check」「Action」の4ステップから構成される「PDCAサイクル」は、多くの企業で導入されてきた考え方です。ビジネスシーンですっかり定着しているフレームワークですが、近年その考え方が古いという意見が目立ってきました。本記事では、PDCAサイクルが古いといわれる理由や効果的な回し方、導入するメリットやデメリットなどについて、現役フリーアナウンサー、日本語教師の阿部佳乃が解説します。

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<目次>
PDCAサイクルの意味とは
PDCAサイクルのメリット
PDCAサイクルのデメリット
PDCAサイクルを効果的に回すポイント
PDCAサイクルが失敗する要因
PDCAサイクルの企業事例
PDCAサイクルが古い・時代遅れだといわれる理由
PDCAサイクルに替わるフレームワークとは
PDCAに関するよくある質問
まとめ

PDCAサイクルの意味とは

PDCAサイクルは「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Action(改善)」の4つのステップから構成されるフレームワークで、ビジネスシーンにおいて業務改善や業績向上に欠かせない考え方として定着しています。

4つのステップそれぞれを別のものと考えるのではなく、全てのステップを一連の流れとして捉え、Plan→Do→Checkと進めたら、最後のステップとしてAction(改善・修正)を行い、次のPlanに反映させるという形でサイクルを循環させます。以下で、それぞれの意味について見ていきましょう。

・Plan:計画する
PDCAサイクルの中でも重要な役割を担うのが、ファーストステップとなる「Plan(計画)」です。まずは現状を正しく把握、分析し、今後の目標や目的を決定した上で計画を立てます。計画をより具体的なものにするために、「Who(誰が)」「When(いつ)」「Where(どこで)」「What(何を)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」「How much(いくらで)」という5W2Hを意識して検討しましょう。

ここでポイントとなるのが、計画を立てる際には数値を使って定量的評価を行うということです。定量的評価を行うことで、現状と目標の間に存在する差を埋めやすくなるだけでなく、過去のデータとの比較や先の管理がしやすくなります。また、計画を立てる際はなんとなく過去の方法にならうのではなく、その都度現状に見合った仮説を立て、現実的な目標についてチームメンバーと話し合って決めることが大切です。

・Do:実行する
Planのステップで立てた計画を、Doのステップで実行に移します。計画した上での実行と聞くと「プランに忠実に動く」という印象がありますが、PDCAサイクルにおける「Do(実行)」には、目標を達成するために「試行する」という意味も含まれています。そのため、計画を一気に行動に移すのではなく、細かいタスクに分解して計画が最適であったかを検証しながら進めることが大切です。

タスクごとの進捗状況や結果について細かく記録し、万が一計画通りに進まなかった場合も、その経過をもれなく残しておきましょう。そうすることで、現実と目標において、どの部分にどのような要因で差が生じたのかを正しく把握することができます。あとで誰が見ても状況を理解できるように、できる限り数値化して記録することが原則です。

・Check:評価する
計画に基づいて実行した内容が正しかったかどうかを評価するのが「Check(評価)」のステップです。計画に基づいて行った内容について分析し、万が一計画通りに目標を達成できなかった場合はその原因を追究します。方法が悪かったのか、あるいは計画自体に問題があったのかなど、正確なデータをもとに徹底的に検証することで、次の「Action(改善)」につなげることができます。

実際の現場では、「目標や計画が曖昧で、正確に評価できなかった」といった失敗が生じているケースが少なくありません。Planの段階で明確な目標を立て、適切な評価を行った上で、その結果を正しく反映させることが業務改善や品質改善につながるのだということを念頭に置いておきましょう。

・Action:改善する
PDCAサイクルの最終ステップとなるのが「Action(改善)」です。ここでは、前段階で明らかになった検証結果を見ながら、今後の対策や改善案について話し合います。最初の計画通り目標を達成できた場合は、それにならって新たに目標を設定しますが、一方で目標に到達せず終わってしまった場合には、計画の練り直しや業務改善が必要となります。一般的に改善策は複数挙げられることが多いですが、その場合は優先順位をつけ、順位の高い方から業務に落とし込んでいくといいでしょう。

あまりにも計画と結果がかけ離れており改善が難しい、あるいは最適な改善策が見つからないといった場合には、計画自体を中止したり延期したりする判断が必要になるかもしれません。そうならないためには、時間や手間を惜しまず、全てのステップにおいて丁寧に検証することが大切です。

PDCAサイクルのメリット

企業がPDCAサイクルを導入することで、さまざまなメリットが得られることが分かっています。その中でも、特によく知られているメリットについて具体的に見ていきましょう。

・メリット(1)継続的に業務を改善できる
PDCAサイクルを導入する最も大きなメリットが、企業として継続的な業務改善が見込めるということです。PDCAサイクルは一度「Plan」から「Action」のステップまでをこなせば終わりということではなく、サイクルを繰り返す中で何度もフィードバックを行いながら、継続的に業務を改善していくことを目的に作られたフレームワークです。

そのため「Action」から「Plan」へ戻る際に、方法や対策を工夫しながらPDCAサイクルを繰り返すことで、確実に業務改善を行うことができ、中長期的に考えると業績向上につなげることができるのです。

・メリット(2)KPIやタスクが明確になる
実際の現場にいると「なんとなく働いている」「何を目標にすべきか分からない」という声は珍しくありません。しかし、PDCAサイクルを導入することで目標や目的が明確になり、企業のために個人がすべきことが明確になるというメリットが得られます。例えば、営業担当者に契約を取ってくるよう伝えても、抽象的な指示では行動につなげることは難しいでしょう。

そこで「今週は〇〇エリアに出向き、最低5件の新規契約を取ってほしい」と伝えることで、それぞれが目標を達成するためにどう動くべきか、何が必要かといったことを具体的にイメージすることができ、積極的な行動につなげることができるのです。このとき、KGIとなる最終的な売上高や契約数を提示することで、中間指標となるKPIがより具体的に設定しやすくなります。KPIが達成できなければKGIにつなげることは難しくなるため、常にKPIやタスクを確認しながらPDCAサイクルを回すことを意識しましょう。

・メリット(3)目標達成力が向上する
PDCAサイクルを導入することで目標が明確化するとお伝えしましたが、個人がそれぞれの目標を常に意識することで目標達成力が向上するというメリットにつながります。つまり、PDCAサイクルが個々の成長を促し、繰り返すうちに目標達成へのスピードや確実性が向上し、企業全体としての業績向上も期待できるようになるのです。

また、PDCAサイクルを繰り返すことで、到底達成できない目標設定や実行できない計画の立案など、無駄な要素が確実に減っていくため、企業として業務の効率化を図ることも可能です。

・メリット(4)現状の課題が明確になる
今抱えている課題が明確になるというのも、PDCAサイクルを導入するメリットです。何度もPDCAサイクルを回していると、試行と評価が繰り返されるうちに、少しずつ目標と結果の間にあるズレが浮き彫りになってきます。そこから、そのズレはどこから生じているのか、修正するためにはどのような工夫が必要なのかといった、問題解決における具体的な解決策の糸口が見えてくるはずです。

・メリット(5)社内に知見がたまりやすい
最後にご紹介するメリットは、PDCAサイクルを導入しうまく回し続けることで、社内に知見がたまるということです。PDCAサイクルでは、いったん目標を立て、それをもとに作成したプランに沿って実行して検証を行い、その結果から見いだした改善策を再度計画に盛り込むという流れになっていますが、一方で成功か失敗かにかかわらずそれら全てを記録することが原則とされています。

そのため、PDCAサイクルを回せば回すほど、社内には常に新しい知見やノウハウがたまり続けていくのです。PDCAサイクルを回す過程で、有効な新案や見事成功に導いた改善案などが見つかったら、その都度業務マニュアルなどに追記し内容をアップデートしておくと、社内でも共有しやすい環境を作れるでしょう。

PDCAサイクルのデメリット

PDCAサイクルには多くのメリットがある反面、導入する前に知っておくべきデメリットも存在します。あとで「こんなはずじゃなかった」などと後悔しないよう、事前にしっかりと理解しておきましょう。

・デメリット(1)イノベーションが生まれづらい
PDCAサイクルのデメリットとしてよくいわれているのが、イノベーションが生まれづらいという点です。PDCAサイクルは、原則として過去のデータや実績をもとに再度プランニングしていく流れとなっており、目的は企業における「継続的な改善」です。そのため、どうしても前例に沿った内容となってしまい、新たな視点や切り口など革新的なアイデアが出にくい状況を生み出してしまうのです。

とはいえ、あくまでもPDCAサイクルは業務改善、品質管理のために作られた考え方なので、イノベーションを生み出したいときには別の方法を採用するのが賢明といえるでしょう。

・デメリット(2)形だけのサイクルになる可能性もある
せっかくPDCAサイクルを導入したにもかかわらず、十分な効果を引き出せずPDCAサイクルを回すこと自体が目的になってしまうケースがあるというのも、PDCAサイクルのデメリットの1つです。

「Plan」「Do」「Check」「Action」の4ステップに分けている意図を理解せず、目の前の作業をこなすだけでは、いつまでたっても業務改善や業績向上につなげることはできません。組織内で目標を明確にしたら、自然と個々が目標達成に向けて「なぜそれを目標としたのか」「目標を達成するために何が必要か」といった疑問を持ち、積極的に行動できるような意識づけを行っていくことが重要です。

・デメリット(3)業務改善のスピードが遅い
近年、PDCAサイクルが古いといわれている理由の1つとして、実際に業務改善されるまでに時間がかかるということが挙げられます。競争や変化が激しい現代では、スピード感のある手法やフレームワークが求められています。

しかし、PDCAサイクルでは「Action(改善)」までに3つのステップを踏む必要があり、その上サイクルを複数回繰り返すことで徐々に改善させていくという考え方が基本となっているため、スピード感を持って業務改善をしたいという企業にとってはデメリットとなってしまうでしょう。

PDCAサイクルを効果的に回すポイント

PDCAサイクルは成果を実感するまでに時間がかかるといわれがちですが、うまく運用することで効率よく業務改善につなげることができます。こちらでは、PDCAサイクルをより効果的に回すポイントについて具体的にご紹介します。

・計画の見える化をして進捗(しんちょく)を把握する
まずは「Plan」の段階で、計画の見える化を行います。誰が見ても理解できるような明確な目標を決め、それに沿って具体的なプランニングを行うことから始めましょう。このとき、「〇件契約」や「〇%達成」というように定量的な数値を用いて目標を設定することで、あとに続くプロセスの内容や進捗を把握しやすくなり、PDCAサイクルをよりスムーズに回せるようになります。見える化した内容は社内やチームメンバーに周知し、全員で進捗を共有できる環境を構築するのが理想的です。

・評価の習慣化によってプランの価値を見直す
なんとなくPDCAサイクルを回すのではなく、サイクルの間で定期的に評価を行い計画内容の価値を考え直すことが効率的なPDCAサイクルにつながります。PDCAサイクルはしっかりとステップを踏むことで着実に業務改善を行えるフレームワークですが、実は「Check」や「Action」のステップを飛ばして「Plan」と「Do」だけでも業務として成立してしまうという落とし穴があります。

しかし、それでは一向に業務改善や業績向上につなげることはできず、ただサイクルを回しているだけになります。しっかりと効果を得るためにも、定期的に進捗状況を評価することで計画と進捗状況に乖離がないかを確認し、問題があればその都度対処していきましょう。

・無理のない計画の仕組み化をする
PDCAサイクルをスムーズに回すためには、実現できる目標や計画を立てることが基本です。何度もお伝えしている通り「Plan」の段階に問題があれば、その後の3ステップは成立しなくなってしまいます。過去のデータや現状を考慮した上で、チームメンバーが「少し頑張れば達成できそう」と感じられるレベルの目標や計画を設定しましょう。

必要に応じて現場担当者の意見も取り入れるなど工夫すると、より現実的な計画に仕上がるだけでなく、チーム全体にも一体感が生まれ、より業務の効率化が図れるはずです。作業が属人化している場合には、簡単なプランニングから段階的に始め、誰もがPDCAサイクルを回しやすい仕組みを構築するのも有効な手段です。

・計画はなるべく具体的に立てる
先にもお伝えしましたが、計画が具体的であればあるほどPDCAサイクルを回しやすくなります。数値化して明確な目標や計画を掲げることで、それらから逆算して必要なタスクを具体的に挙げやすくなるのです。可能であれば、KPIという形で個々の目標や指標を設定させることで、より目の前のタスクに集中しやすくなります。なかなか目標が達成できない従業員がいる場合には、スモールステップを踏むようアドバイスすると、よりスムーズにPDCAサイクルを回すことができるでしょう。

・目標の期限の明確化をする
明確な期限を設定することも、PDCAサイクルを効率よく回すためには欠かせないポイントの1つです。どれだけ綿密な計画を立てたとしても、それをいつまでに行うのかという具体的な指示がなければ、最終的に計画倒れとなってしまう可能性が高くなります。

また、心理的なプレッシャーがないことから作業が後回しとなり、結果的に想定していた効果が大幅に減少してしまうリスクも否定できません。目標や計画から逆算して動けるよう現実的な期日を設定し、合わせてカレンダーへの登録やチーム内での共有を行っておくと安心です。

PDCAサイクルが失敗する要因

仕組み自体は決して難しくないにもかかわらず、PDCAサイクルが失敗に終わってしまうケースが後を絶ちません。その原因は、一体どこにあるのでしょうか。以下に、PDCAサイクルが失敗する理由についてまとめました。

・明確なゴールがないから
PDCAサイクルが失敗に終わってしまう最大の要因は、「Plan」の段階で明確なゴールが設定されていないことです。そもそもPDCAサイクルの基本は「仮設」と「検証」にあり、しっかりと仮設を立て、その仮設に基づいて行動し、得られた結果について検証した上で、さらなる仮設を立てるというサイクルを回すことに意味があります。そのため、明確な目標がなければ適切な行動に移すことができず、当然効果においても満足のいく結果を得ることができないのです。

・十分な振り返りができていないから
「Check」の段階で、十分なフィードバックができなかったことが、PDCAサイクルを失敗に導く要因となるケースもあります。せっかく明確な目標を立てた上でプランニングを行い、その計画に沿って実行できたとしても、検証することなく先に進んでしまっては、どの部分がよかったのか、あるいは悪かったのかといったことを把握できず、次のサイクルに生かすことができません。「今期は成績がよかった」ではなく、「新規で10件契約が取れた」「前年比の20%増だ」といったように、定量的に評価すると効果的です。

・立てた計画を実行できていないから
先に立てた計画通りに行動できないことも失敗の要因となります。これは、PDCAサイクルがトップダウンで運用されている組織に多く、中には計画の内容自体が机上の空論となっているケースも珍しくありません。「まずはやってみればいい」「できることから始めてみよう」といった無計画なやり方ではPDCAサイクルを回すことができないため、まずは現実味のある具体的な計画を設定することから始めましょう。

・そもそもの方向性が間違っているから
PDCAサイクルを回すにあたって、方向性を誤って失敗に終わることもあります。PDCAサイクルでは、最初に設定した計画に沿って一切トラブルなく進み、期待通りの効果が得られていればサイクルに問題はないといえます。しかし一般的にそうでないことも多く、計画の変更や場合によっては延期や中止を選択しなければならないケースも出てくるでしょう。ところがその判断ができず、方向性を間違えたまま次のサイクルに入ってしまうことがあります。

実際の現場では、自分が提示した計画を撤回しにくい、あるいは上司に言いにくいなどといった理由で誤ったままサイクルが継続されるケースも多いですが、業務効率化を目指すなら意を決して伝えることも大切です。

PDCAサイクルの企業事例

PDCAサイクルについては賛否両論ありますが、PDCAサイクルを導入し大幅な業務改善を成功させた企業は数多くあります。こちらでは、実際の企業におけるPDCAサイクルの成功例についてご紹介します。

・事例(1)GMOメイクショップ
GMOメイクショップは、もともとExcelを使ってPDCAサイクルを管理していましたが、部署間における情報共有に限界を感じていたといいます。そこで新たに導入したのが、営業支援ツールです。Excel管理では難しかった各ステップにおける状況把握や成果の確認がツールを導入したことで大幅に効率化され、さらに徹底的に無駄を省いた結果、会議の時間短縮、案件の取りこぼしゼロを実現しています。

・事例(2)トヨタ自動車
PDCAサイクルの成功例として、頻繁に名前が挙げられる企業といえばトヨタ自動車です。3Mといわれる「ムリ・ムダ・ムラ」を徹底的に排除することでコストを大幅カット、加えて「カイゼン」といった独自の活動により生産の効率化にフォーカスした取り組みは「トヨタ式PDCA」などとも呼ばれています。また、トヨタ式PDCAには「5W1H」が採用されていることが特徴です。

通常は「Who」「When」「Where」「What」「Why」「How」が基本ですが、トヨタの場合は「Why(なぜ)」を5回繰り返します。「なぜ、〜なのか」を繰り返すことで、曖昧だった目標や課題が具体化され、自然と必要なタスクが見えてくるというのです。計画倒れでPDCAサイクルがうまく回らないという場合には、積極的に取り入れたい手法といえます。

・事例(3)ソフトバンク
大手IT企業であるソフトバンクは、独自の高速PDCAで大きな成功を収めたことで知られています。基本的な考え方は一般的なPDCAサイクルと同じですが、「ソフトバンク3原則に基づく」というのが大きく異なる点です。

ソフトバンク3原則とは、「思いついた計画は、可能な限り同時に実行する」「1日ごとの目標を決め、結果を毎日チェックして改善する」「目標も結果も、数字で管理する」という3つの考え方で、これらを組み込んだものが「高速PDCA」とされています。つまり、1日単位でPDCAを考えているのです。「実行のハードルは低く、目標のハードルは高く」という行動指針に基づき、まずは挑戦してみる、それでダメなら明日やり直すというスタイルを繰り返して今の地位を築き上げたといえます。

・事例(4)良品計画(無印良品)
幅広い年齢層から支持されている株式会社良品計画(以下、無印良品)は、かつて業績悪化の一途をたどっている時期がありました。そんな中、現状調査員によって「それぞれのスタッフが培ってきたノウハウを共有できていないことで、サービス品質にムラが出ているのでは?」という仮説が立てられたといいます。確かに、無印良品ではそれまでマニュアル化された資料がなく、スタッフや店舗における業務品質に差があることが問題視されていました。

そこで経理などの業務を「業務基準書」に、店舗業務を「店舗用マニュアル」に統一し、全スタッフがマニュアルに沿って「実行」し、業務について「評価」するという仕組みを構築しました。実際にマニュアルに沿って動き、気付いた点については社内ネットワークで共有することで「改善」につなげるという流れを作り上げたことで、一時は約38億円の赤字だった状況を、6年間で利益72億円にまで業績回復させました。

・事例(5)ミイダス
転職支援・採用支援サービス「ミイダス」の運営を行うミイダス株式会社は、アプリ版のマーケティングにおいてPDCAサイクルを導入し成功を収めています。もともとアプリ版はマーケティングを視野に入れていなかったこともあり、アプリストアの評価は決していいとはいえない状況が続いていました。

そんな中、評価の回復を目指してPDCAサイクルを導入、そこから地道なASO施策を繰り返したり、実際のレビューからプロダクトの改善を試みたりとサイクルを繰り返した結果、見事評価を向上させることに成功しました。また、実行と検証を繰り返す中で新しい知見が見つかったり、ノウハウが蓄積されたりと多くのメリットがあったとのことです。

PDCAサイクルが古い・時代遅れだといわれる理由

大手企業においても有効だとされているPDCAサイクルですが、近年「古い」「時代遅れだ」などといった声が聞こえるようになりました。ビジネスシーンで長く活用されてきた方法が、なぜこのようにいわれるようになったのでしょうか、その理由をご紹介します。

・目標設定が長期になるため結果が出るまでに時間がかかる
PDCAサイクルが古いといわれる最大の理由は、結果として業務改善や業績向上を実感するまでに時間がかかることです。PDCAサイクルは「Plan」から「Action」までの4ステップを複数回重ねてやっと効果が得られるというフレームワークであるため、中長期的な計画立案が前提となっています。

しかし、近年はジャンルを問わず市場が目まぐるしく変化し、長期的に考えていると乗り遅れてしまう可能性が大いにあります。スピード感が重視される昨今、時間をかけて成果が出るのを待つという手法は時代遅れだと感じる人がいるのも不思議ではありません。

・業務改善のスピードが遅くなりやすい
他のフレームワークに比べると、PDCAサイクルは業務改善のための作業にも時間がかかります。まずは一連のサイクルの中から問題点を見いだし、それに対して改善策を立案するという流れですが、例えばサイクルの中で新たな課題に直面した場合、PDCAサイクルに当てはめると即座に対処することができません。

いったんそれを踏まえて立案した計画を実行に移し、検証した上で改善策や対応策を検討しなければならないため、その間に市場が変化し、回していたPDCAサイクルが無駄になるというケースも少なくないのです。迅速な意思決定が求められるこの時代、PDCAサイクルは古いという意見が出るのにもうなずけます。

・一連のサイクルが作業化してしまうケースが多い
成果が出るまでに時間がかかることで、PDCAサイクルが作業化してしまうことも、時代遅れといわれる理由の1つといえます。せっかくPDCAが導入されても、目の前にある通常業務を行っているうちに本来の目的や目標が見失われ、「とにかく回すこと」が重視された結果、サイクルが作業化してしまうのです。そうなると、各ステップが意味のないものになり、近年の市場では太刀打ちできないどころか、もはやマーケティング手法とは呼べなくなります。

PDCAサイクルに替わるフレームワークとは

PDCAサイクルには多くのメリットがある反面、新しい案を生み出しにくい、結果が出るまで時間がかかるといったデメリットもあります。そこで近年は、時代のスピードに対応できる、PDCA以外のフレームワークが次々と採用され始めています。代表的なものを集めたので、こちらでそれぞれの違いを理解しておきましょう。

・OODAの意味とPDCAとの違い・使い分け
OODAは、「Observe(観察)」「Orient(状況判断)」「Decide(意思決定)」「Action(行動)」の頭文字を取って作られたことばで、「ウーダ」と読みます。1970年代、アメリカ空軍大佐だったジョン・ボイド氏は、戦闘時に相手の動きをよく観察(Observe)し、瞬時に状況判断(Orient)した上で戦術を決定(Decide)し、実行に移す(Action)という戦術理論を生み出しました。

ポイントは、行動に出た結果をそのまま観察に反映させることです。OODAループの中には、PDCAのような計画立案やフィードバックがありません。このように、本来OODAは戦闘のためのフレームワークでしたが、その対応力や機動力の高さは現在のビジネスシーンでも応用されています。戦場と同様に動向の読めない市場では、効果を実感するまでに時間を要するPDCAは不向きといえます。迅速な意思決定が必要な場合はOODA、じっくり時間をかけて検証したい場合はPDCAと覚えておくといいでしょう。

・PDRの意味とPDCAとの違い・使い分け
PDRは、2011年に提唱されたマネジメント手法です。「Prep(準備)」「Do(実行)」「Review(評価)」の3ステップから成り、中でも実行に移すという点に重きを置いています。小さな行動を積み重ねるサイクルを高速で回すことで、日々変化する市場の動向にも柔軟に対応が可能です。

PDCAサイクルは「まずは計画を立てよう」という姿勢、PDRサイクルは「とりあえずやってみよう」という姿勢だとイメージすると分かりやすいでしょう。また、評価として「Check」ではなく「Review」を採用しているのも特徴的です。チームメンバー以外の客観的な評価を受けることでイノベーションが生まれやすくなり、まさにPDCAの弱点をカバーした手法といえます。

・PDSの意味とPDCAとの違い・使い分け
PDSでは、「Plan(計画)」「Do(実行)」「See(評価・見直し)」の3ステップを効率よく回して業務管理を行います。PDCAサイクルにおける「Check」と「Action」の2ステップが、「See」のステップに集約されているのが大きな違いで、計画に基づいて行動した後、評価とフィードバックをまとめて行うことで、素早く次のサイクルにつなげることが可能となります。

ただし、PDCAと同様に「Plan」の段階で現状に沿った計画立案ができなければ、計画倒れになる可能性が高いため、実現味のあるプランニングが必須となります。PDCAよりも短期間の目標で回したいときや、小規模なタスクをこなすときに採用するのがおすすめです。

・DCAPの意味とPDCAとの違い・使い分け
PDCAの順番を入れ替えて作られたマネジメント手法がDCAPサイクルです。「Do」を先頭に持ってきて「考えるより先に行動する」という流れを作ることで、突然のトラブルや課題に対し、PDCAよりも柔軟に動けるサイクルを実現しました。

また「Plan」をサイクルの最後に設定することで、行動を起こしてみた結果どうなったのか、その間に競合他社にどのような動きがあったのかといったことを加味して改善策を打ち出し、次の行動に反映させることができるようになっています。市場調査よりもまずは現場の状況を把握したいというときには、PDCAよりもDCAPサイクルが合っているといえるでしょう。

・G-POPの意味とPDCAとの違い・使い分け
トップダウンになりがちなPDCAサイクルに対し、ゴールから逆算するというまったく逆の発想から作られたのがG-POPです。常に「Goal(最終目的)」を念頭に置き、「Pre(事前準備)」にしっかりと時間をかけ、「On(実行・改善)」しながらトラブルや課題に柔軟に対応し、その結果に対し「Post(振り返り)」を行うことで次回につなげる気付きを得るというのが一連の流れで、PDCAでは見失いやすい最終目的を常に意識できるというメリットがあります。

また、G-POPにおける「Post」とは、単純に失敗の原因を見つけ出すことではありません。うまくいかなければ、二度と同じ過ちを繰り返さないための再発防止策を徹底的に考え抜き、反対にうまくいった際には成功した理由を探して再現性の向上を図ることが肝要なのです。PDCAサイクルを導入したものの成果が感じられない場合は、G-POPに変更してみるというのも1つです。

・STPDの意味とPDCAとの違い・使い分け
STPDサイクルの最も大きな特徴は「現状把握を最重視する」という点です。かつてソニーの常務取締役だった小林茂氏が提唱したマネジメント手法で、計画を立てる時点で担当者による「思い込み」があると方向性を見誤りかねない、という課題を解決する方法としてビジネスシーンでも広く活用されてきました。

「See(観察)」「Think(考察)」「Plan(計画)」「Do(実行)」の4ステップから成り、現状把握を先頭に置くことで、目標が現実離れしてその後のサイクルがうまく回らない、という事態を回避できる仕組みとなっています。先入観を取り除き、定量的な数値と目の前にある状況からプランニングを行うことで、よりギャップの少ない状態を維持しながら短期間でサイクルを回すことができるため、現在PDCAで目標と現状に差があるという場合は導入を検討してみましょう。

・DCAの意味とPDCAとの違い・使い分け
PDCAから「Plan」を外し「Do」を優先させたサイクルがDCAです。これほど市場が目まぐるしく変化する中にあっても、日本企業は「Plan」を重視する傾向にあるといわれています。まずは時間をかけて市場調査を行い、驚くほど多くの情報を使って綿密な計画を立てた上で上司にお伺いを立てます。この時点で承認が得られず、1から調査をやり直すという経験をしたことがある人も少なくないでしょう。
この通り、実行に移すまでに相当の時間を要するのです。これでは、すでに始まっているグローバル化の波にのまれてしまい、手も足も出ない状況で撤退するしかなくなってしまいます。

もちろん、しっかり計画を練らないまま実行に移すため失敗のリスクは高くなりますが、トライ&エラーを繰り返すうちに早く課題に気付けたり、対策案が生み出せるようになるものです。計画段階から進まずPDCAサイクルが軌道に乗らない場合には、思い切って「Plan」を外してみるのもいいかもしれません。

PDCAに関するよくある質問

Q. PDCAがうまくいかない例は?
PDCAサイクルの失敗例には、以下のようなものがあります。

・取るべき行動が明確でない
目標が決定したにもかかわらず、そのためにどのようなアクションを起こせばいいのかが明確になっていないケースです。「なぜホームページの離脱率が高いのか考えましょう」ではなく「ホームページの離脱率が高い理由について1人につき3つの要因を探してください」といったように具体的な指示があれば「Do」につなげやすくなります。

・「Check」がただの感想になっている
Checkのステップでは、しっかりと計画と結果のギャップを見極め、そうなった原因を追究することでActionにつなげます。ところが「残念ながら失敗に終わった」「努力が足りなかった」などと感想を述べて終わるケースが珍しくなく、そうした組織ではことごとくPDCAサイクル自体が失敗に終わっています。行動の振り返りは厳しく行い確実にActionにつなげることで、やっと業務改善や業績向上といった効果が実感できるようになるのです。

・明確な期限が設定されていない
目標と計画が決まったら、それをいつまでに達成するのかを明示し、記録に残すことが大切です。現場では、どうしても長期的な目標よりも目の前にある仕事に優先的に取り掛かる傾向にあります。そのため、期限を設定してそれぞれに自覚を持たせるような促しを行いましょう。

Q. PDCAで大切なことは何ですか?
PDCAサイクルをうまく回すために大切なことは、以下3つのポイントです。

・具体的な目標と細かな計画
抽象的な表現を避け誰が見ても理解できるよう具体的な目標を掲げること、それを達成するために必要なタスクを組み込んだ細かい計画を立てることが成功のカギです。定量的な数値を用いて提示することで、モチベーションの向上にもつながります。

・現実味のある目標と計画を設定する
トップダウンになりがちなPDCAサイクルでは、到底達成できない目標設定や実行に移すのが難しい計画が立てられることがあります。しかし、現実と計画にギャップがありすぎると、現場の従業員は何から手を付けるべきか判断できず、結局何もできずに終わるというケースが多く見られます。「少しの努力で達成できそう」と思わせるような目標と計画を設定し、従業員のモチベーションを高めることが大切です。

・計画に沿って行動する
計画を立てたにもかかわらず、それに沿わない形で行動してしまっては「Check」で適切な評価ができません。もちろん次に続く「Action」でも問題が改善されることはなく、PDCAサイクルを回すこと自体が無意味になってしまいます。次のサイクルに反映させられるよう、必ず計画に沿って最後までやり切りましょう。

まとめ

多くの企業で広く導入されているPDCAサイクルについて解説しました。PDCAはビジネスシーンにおける基本となるフレームワークであり、じっくりと時間をかけて業務改善や業績向上を行いたい企業にとって最適なマーケティング手法といえます。近年は、目まぐるしく移り変わる市場においてPDCAサイクルは古い、時代遅れだという声も聞こえてきますが、そうした場合にはPDCAにこだわらず、参入する市場や企業の方針などを考慮し、自社に合ったフレームワークを採用するのも1つです。

とはいえ、世界中の企業で長く採用されてきたPDCAサイクルは、重要なポイントさえ押さえれば激化する市場であっても十分に成果を出すことが可能です。十分な効果が感じられないという人は、目標は現実的か、計画に無理はないかと、今一度自社のPDCAを見直してみましょう。

■執筆者プロフィール
阿部佳乃
阿部 佳乃(あべ よしの)
アナウンサー×日本語教師/元TBSテレビあさチャン!報道リポーター。大学卒業後、佐渡ケーブルテレビを経て、UX新潟テレビ21/NHK水戸放送局キャスター/とちぎテレビアナウンサー。現在は、アナウンス講師、ナレーター、イベント司会等、フリーランスで活動しながら、大学や日本語学校で留学生に「日本語」を教えている。趣味は、旅行(47都道府県制覇)と声楽、読書。
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