ドラァグクイーンの「絵本読み聞かせ」に関する、東京都現代美術館の“声明”に称賛の嵐。一体なぜ?

ドラァグクイーンが子どもに絵本を読み聞かせるイベントへの一部の批判の声に対し、東京都現代美術館が毅然と擁護する声明を発し、称賛されました。

読み聞かせイベントの批判に対する、東京都現代美術館の声明

東京都現代美術館
東京都現代美術館

7月の初め、東京都現代美術館での「あ、共感とかじゃなくて。」展の関連事業の1つとして「ドラァグクイーン・ストーリー・アワー ~ドラァグクイーンによるこどものための絵本読み聞かせ~」が企画されました。

ただ人気があるというだけでなく、人格的にも素晴らしいと評判を呼ぶエスムラルダさんとレイチェル・ダムールさんという2人が出演することになったのですが、SNSでイベントの告知をした東京都現代美術館の投稿に対して、「子どもたちを性的にかどわかすものだ」などといった偏見や誤謬(ごびゅう)に基づく差別的なコメントもたくさん寄せられました。
 
これを受けて7月4日、東京都現代美術館は「『ドラァグクイーン・ストーリー・アワー』に関する美術館の見解につきまして」と題する声明を発表。

読み聞かせの趣旨として、「展覧会のメインターゲットである10代より年齢の低い方」に対象を広げているとし、子どもたちになじみ深い絵本を通して、世界と人々の在り方、幅広さや違いについて考える機会を提供する企画であると説明しました。

また、「ドラァグクイーン・ストーリー・アワー」がサンフランシスコで始まり、世界各地に広まり、日本でも開催されてきたことにも触れ、読み聞かせを行うドラァグクイーンにはみな活動実績があり、安全配慮などのトレーニングを受けているということ、絵本の内容、ドラァグクイーンの衣装も子どもの安全を配慮したものにしていることなどにも言及しています。
 

子どもたちが「固定されたジェンダー概念」に触れることが多い現状

さらに、「対象年齢は3歳から8歳とし、保護者の同伴を必須」としている背景について、子どもたちがその年齢からすでに「女の子だから」「男の子だから」という固定されたジェンダー概念に触れることが多い現状を踏まえている、と前置きしたうえで、メインターゲットは10代であるものの、より幅広い年代の人が、ジェンダーや個性の多様性に触れ、自分らしさを肯定する機会となることをイベントの狙いとして説明。

海外で発生している「ドラァグクイーン・ストーリー・アワー」に対する反対運動などについては、「美術館でも事例を把握している」といい、実施にあたっては参加者の安全を第一に対応すると述べ、差別者におもねるのではなく、過激化する懸念もあるアンチの人たちから参加者を守ると宣言。

最後に、あらゆる鑑賞者に開かれた美術館として、多様なプログラムの中から自由に選択できるようにすることで、幅広い価値観に出会える可能性を提供していきたい、と結んでいます。
 

毅然と差別者に対峙した東京都現代美術館に賛辞が集まる

SNSでは、この声明に対して「差別者の圧力に屈しない東京都現代美術館の姿勢を強く支持します。立派」「毅然とした言葉で主旨を提示して見解を明示されてますね。大人の対応」「差別者の無理筋なクレームに屈することなく真っ当なステートメントを出した美術館を支持します」「都現美を全面的に応援します」といった激賞のコメントが寄せられました。
 
LGBT理解増進法案の議論の高まりとも連動して、5月から6月にかけてSNS上で、LGBTQへの差別的発言・ヘイトスピーチが増大し、LGBTQコミュニティの多くの人々が傷つき、疲弊していました。そんな中、東京都現代美術館が毅然と差別者に対峙(たいじ)し、開かれた場として表現の自由や参加者を守ると表明してくれたことは本当に素晴らしく、当事者を勇気づけるものとなりました。
 
ちなみに東京都現代美術館では、かつてドラァグクイーンとしても活躍していながら、1995年にエイズを発症して亡くなった伝説のアーティスト・古橋悌二さんらによる、『S/N』という作品で世界的に称賛を集めたアート・パフォーマンス集団「ダムタイプ」の展示も手掛けていますし、今はオープンリー・ゲイのアーティスト、デイヴィッド・ホックニーの個展を開催しています。
 
現代美術の世界では、フランシス・ベーコン、トーベ・ヤンソン、アンディ・ウォーホールら、多くのLGBTQの人物が活躍してきており、性の多様性を尊重するという態度はごく当たり前のこと。クィアな視点(異性愛規範や性別二元論への批判)を無視して現代美術を扱うことは不可能なのです。

そういう意味では、(宗教がらみだったりする)アンチの人たちの無理筋な口撃に怯んで企画を取りやめず、毅然と対処することは当然といえば当然なのですが、それにしても立派な態度だったと思います。
 

ドラァグクイーンの歴史や文化に敬意を払うということ

ドラァグクイーンの読み聞かせに対するバッシングはすでに欧州にも飛び火しています。

スウェーデンでは5月、極右政党の党首がテレビ討論会で「ドラァグクイーンの読み聞かせの会に税金が使われるのは“非常識だ”」と批判する出来事がありました。

これに対し、ストックホルムのヤン・ヨンソン副市長が自らドラァグクイーンに扮(ふん)し、いすに座り、子どもたちに囲まれながら、リンドグレーンの『はるかな国の兄弟』という本にある「危険を冒してでも信念のために立ち上がることが重要」だと語る一節を朗読する動画をSNSに投稿しました。

ヨンソン氏は「物語は子どもにとって害はない。ドラァグクイーンも同じだ。だが、ポピュリズムと不寛容は子どもにとっても、大人にとっても危険」「私自身がドラァグアーティストのためのキャンバスのようなものになることで、誰もが自由に自分を表現すべきだという主張を伝えられると思った」「『スウェーデンは自由な国であるべきだ』と言える人が増えることを願っている」と語っています。スタンディングオベーションを送りたい気持ちです。
 
日本でも今後、ドラァグクイーンへの攻撃がさらに強まっていくことも懸念されますが、ヤン・ヨンソン氏のように(ドラァグしろとは言いませんが)ドラァグクイーンの歴史や文化に敬意を払い、アンチの人たちからの攻撃に毅然と立ち向かい、擁護してくれる人が増えてほしいと思います。

日本のドラァグクイーンは世界に誇れるような豊かなカルチャーを築いてきました。この素晴らしい文化が損なわれることのないよう、みんなで守っていきましょう。


この記事の執筆者:後藤純一 プロフィール
All Aboutのセクシュアルマイノリティ・同性愛ガイド。アウト・ジャパン執行役員。京都大学卒業後、ゲイ雑誌編集者、校正者などを経て、Webメディアを中心にライターとして活躍。過去に、東京のレインボーパレードの実行委員やHIV予防啓発などのコミュニティ活動にも携わる。

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