トランスジェンダーとは? トイレやお風呂に関する「誤解」、当事者が本当に困っていることは何なのか

津田塾大学が6月23日、多様な女性の在り方を尊重する基本方針に基づき、2025年度入試よりトランス女子学生の受験資格を認めると発表しました。トランスジェンダーにまつわる偏見や誤解、思い込みを解きほぐすように解説します。

トランスジェンダーは人口が少ない?


『ファースト・デイ わたしはハナ!』というトランス女子の中学生活を描いたドラマを見たことがある人は、女の子にしか見えないハナがトランス女子であることによって、学校生活でどんな困難に直面するかを追体験し、ハナに共感できたことでしょう。

第二次性徴を抑制する「抗ホルモン剤」のおかげで、望まない性徴の発生を抑えることに成功している人も多くなっています。そういうことを知らないと、トランス女性といえば“男性が女装したような人”という固定観念・誤解を持ってしまいがちなのではないでしょうか。
  
トランスジェンダーに対して間違ったイメージを抱いている人が多い理由には、トランスジェンダーの人口が少ないということも関係していると思います。LGBTQの人口は8〜10%くらいといわれていますが、トランスジェンダーはLGBなどに比べてとても少なく、0.5%くらいです。

テレビには以前、はるな愛さんらトランス女性のタレントがよく出演していたので、そのようなイメージを持っている人もいると思いますが、身近にトランスジェンダーの友人や知人がいる人は少ないのではないでしょうか。トランスジェンダーがどういう人で、どんなことに悩み、困っているか、リアルに見聞きしたことがない人も多いと思います。
 

トランスジェンダーのトイレやお風呂の問題について 

最近よく取り沙汰されることとして、トイレやお風呂のことがあります。「LGBT法が認められたら、男性器がついたままのトランス女性が女子トイレや女湯に入ってくるのを止められなくなる」などという言説です。

厚生労働省は、LGBT理解増進法成立直後に全国の自治体の衛生主管部長に宛てて、「公衆浴場や旅館施設の共同浴室ではこれまで通り『身体的特徴』で男女を取り扱い、混浴させないこと」を確認する通知を出しています。

同法が成立する前の国会審議で、「性別適合手術を受けていないトランス女性が自認性に基づいて女湯に入れるよう主張するのではないか」という議論があったため、法律成立の前後で取り扱いに変更が生じないことを改めて周知したというわけです。

LGBT理解増進法は日常生活におけるルールに対して何か変更を加えるものではありませんので、当然、取り扱いに変更は生じませんし、最初からトランス女性(をはじめLGBTQコミュニティ)は「女湯に入れろ」などと主張していません。

また海外で、トランスジェンダーが自認性に基づく性別のトイレに入ることを保障したことによって、性犯罪者が増加したというデータもなければ、オールジェンダートイレを設置した結果、トラブルが増加して閉鎖されたという話も聞きません。

これまでも、女装した男性が女子トイレや女風呂に侵入する犯罪はありましたが、それらの事件を起こした犯罪者たちは当然罰せられるべきです。LGBT理解増進法の成立以前から存在していた犯罪は、トランス女性を差別し、排除したところで何も解決しません。

また、もし出生時に割り当てられた性別でのトイレ利用を強制すると、男性にしか見えないトランス男性も女子トイレに入らざるを得なくなり、かえって混乱を招くことになるでしょう。
 

トランスジェンダーがトイレの利用で実際に困っていること

トランスジェンダーの多くは、自認する性別のほうのトイレに怖くて行けない……と悩んでいます。2016年に虹色ダイバーシティとLIXILが共同実施した「性的マイノリティのトイレ問題に関するWeb調査」によると、トランスジェンダーの約65%が「職場や学校のトイレ利用で困る・ストレスを感じることがある」と回答しました。

中には、トイレに行くのを我慢して排せつ障害を患う人もいるくらいです。公衆浴場についても、一生行けないと諦めている人がほとんど。これだけ困っている、苦しんでいる人に対して、どうして性犯罪者であるかのようなもの言いがなされるのか……本当に理不尽です。

誤ったイメージに基づいた抽象的な「不安」によってトランスジェンダーを攻撃するのはやめましょうそれは差別にほかなりません。アメリカでかつて、黒人男性が白人女性をレイプするという「不安」によって黒人差別やリンチ殺人が横行したことを思い出していただきたいです。
 

生きたい性を生きるということは、基本的な人間の権利

7月11日、経済産業省のトランス女性職員が、職場で女性として通用していて誰からも苦情が出ていないのに、わざわざ2階離れた遠くの女子トイレを使えと言われたり、上司から「もう男に戻ってはどうか」などと言われ、精神的苦痛を受けて休職に追い込まれるなどして、処遇の改善を人事院に訴えたのに聞き入れられず提訴していた裁判について、最高裁判所は「国の対応は違法だ」とする判決を言い渡しました。

これは、性の多様性を尊重する社会の実現に向けて、当事者の個々の具体的事情を踏まえながら職場環境を改善する取り組みを求めるもので、歴史的な判決でした。
 
最高裁判所は、「性別とは『個人の人格的な生存と密接かつ不可分のもの』である」こと、そして「個人が自認する性別に即した社会生活を送ることは、重要な法的利益であり、国家賠償法上も保護される」と述べています。生きたい性を生きるということは、基本的な人間の権利なのです。

にもかかわらず、トランスジェンダーの前には非常に高い壁がいくつもそびえ立っており、登ろうとすると邪魔をする人もたくさんいて、なかなか乗り越えられません。中には、「望むような性を生きられないのならば……」と人生を諦め、絶望し、自死を選択してしまう人もいます。

この壁を少しでも低くし、生きづらさが解消されるように努めること。それは圧倒的多数であるシスジェンダーの人たちの責務ではないでしょうか。
  
なお、トランスジェンダーに対するバッシングはアメリカで2016年ごろから急に高まってきたのですが、どうしてそういう動きが起こったのか、ということが非常によく分かるドキュメンタリー『最も危険な年』が、トランスジェンダー映画祭実行委員会の主催で8月末にオンライン上映されます。ぜひ多くの人にご覧いただきたいです。


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この記事の執筆者:後藤純一 プロフィール
All Aboutのセクシュアルマイノリティ・同性愛ガイド。アウト・ジャパン執行役員。京都大学卒業後、ゲイ雑誌編集者、校正者などを経て、Webメディアを中心にライターとして活躍。過去に、東京のレインボーパレードの実行委員やHIV予防啓発などのコミュニティ活動にも携わる。

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