ヒナタカの雑食系映画論 第31回

映画『バービー』はなぜ炎上した? 原爆リプライ問題だけでなく、映画本編の素晴らしさを知ってほしい

アメリカの『バービー』公式Xが、非公式のネットミームの画像に好意的なリプライを送ったことが大問題となりました。このことから学ぶべきこととは何か、いま一度考えてみます。 (C) 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

フェミニズムについて、そして“争い”についての物語

映画『バービー』
(C) 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

映画『バービー』を試写で鑑賞した筆者個人の結論は、高畑充希とほぼ同じ意見です。映画本編の内容があまりに素晴らしく、より多くの人に届いてほしいという願いを、強く抱いています。

何しろ、映画本編は女の子に愛されるバービーというおもちゃを題材としたからこその、鋭く射程も広いフェミニズムのメッセージを打ち出していたのですから。それは女性だけでなく男性にも向けられたものであり、さらにもっと大きな“争い”についての普遍的な寓話(ぐうわ)、教訓をも与える物語になっていたのです。

それでいて、冒頭からとある有名な映画のパロディをもって、決して“良い子”な内容ではないことが強調されています。極端にカリカチュアライズされた描写やメタフィクション的な言及も含め、かなり“毒っ気”が強いコメディーでもあるのですが、それらが全く不快ではなく、準主役を演じたライアン・ゴズリングのリアクションの面白さもあって、気兼ねなく大笑いできるというのも驚異的。その“笑い”の裏にはしっかりとした問題意識があり、作り手が真摯に向き合っていることが細かな描写から分かります。

そのおかげで、筆者は「女性の映画なのに男性の自分が見ても自分のための映画だと思えた」「ゲラゲラと笑いながらポロポロと涙を流す」という稀有な映画体験ができました。全くの誇張なく「歴史を塗り替える」映画であると断言できます。何より最初から最後までエンターテインメントとして抜群に面白く、子どもから大人まで楽しめる内容としても申し分がありません。
 
映画『バービー』
(C) 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

現実で“男らしさ”や“女らしさ”の価値観にとらわれた経験がある人にとって、この映画『バービー』からは確実に勇気や希望がもらえるでしょう。さらに、“争い”についての普遍的な寓話は、今回の非公式のネットミームに公式が好意的なリプを送り、それに対して憎悪が憎悪を呼んだことににショックを受けたり傷ついたりした人にこそ響く、いや“救い”になるほどのものでもあると断言します。ただただ、筆者個人としては映画『バービー』を応援していますし、多くの人に見られることを心から期待しています。


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この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「日刊サイゾー」「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の魅力だけでなく、映画興行全体の傾向や宣伝手法の分析など、多角的な視点から映画について考察する。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。

 
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