しかしながら、アメリカの『バービー』公式X(旧Twitter)が、非公式のネットミームの画像に好意的なリプライを送ったことが日本で大炎上し、ネットニュースはもちろん地上波でも一連の騒動が取り上げられました。
初めにはっきり申し上げておくと、映画本編はこの騒動とは全く関係はありません。しかし、議論をする意義は確かにありますし、映画の宣伝に普段から触れている受け手が「一度立ち止まって考えるべき」ものでもあります。問題が発生した経緯を踏まえつつ、その理由を記していきましょう。
もともとは映画の盛り上がりを示す言葉だったが、国際的な大問題に
この問題の発端となったのは、『バービー』と『オッペンハイマー』が多くの都市で同日より公開されたことから、SNS上で発生した「バーベンハイマー(Barbenheimer)」というミームです。どちらもインパクトの強い映画であり、実際にアメリカの映画館はこの2本を見るために観客が詰めかけ、歴代最高ともいえる大盛況となっていました。つまり、もともとは侮蔑的なニュアンスも悪意もない、「同日公開の2本の映画を盛り上げよう!」というファンからの応援の言葉でもあったはずなのです。しかし、『オッペンハイマー』は原爆開発者の実話を描く映画であり、そのミームから発生した非公式のコラージュ画像の多くは、原爆投下の問題を矮小(わいしょう)化している、それどころか原爆を礼賛しているとさえ捉えられる、多くの日本人にとって非常に不愉快に感じられるものだったのです。
図らずも、人類史上において類を見ない原爆投下という悲劇をまるで“ネタ”のように扱ったり、不謹慎な言動が平然と行われたりしていることが、この騒動により明らかになりました。そのことは国際的な大問題として議論されるべきことですし、アメリカの『バービー』公式Xがそれらの投稿に対して好意的なリプライをしたことは強く批判されなければなりません。
そのうえで、アメリカの国民やエンターテインメント作品全てが原爆の被害について差別的、あるいは無配慮な言動をしている、という認識もまた極端であるとも思います。
ハリウッド映画では原爆や核の扱いがたびたび問題として扱われますが、一方で2021年公開のヒーロー映画『エターナルズ』では原爆投下が「悲惨で愚かしい人間の歴史」としてはっきり言及されていました。
また、筆者は『オッペンハイマー』を未見ですが、そちらも本編では原爆を礼賛などしていない、れっきとした反戦・反核の映画になっているという声も耳にしています。
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