是枝作品の「演技をしているようには見えない」子役の演技
そして、『怪物』をはじめとした是枝裕和監督作品は、子役と言いたくないほどに、子どもの演技が自然で、演技をしているようには見えないこともまた称賛を集めています。どのように「現実そのままの子どもの姿」を引き出しつつも作品の完成度を高めていたのか、そして『怪物』に至るまでどのような試行錯誤をしてきていたのかを解説しましょう。口頭でセリフを伝えてこそ、自然な言動を引き出す
是枝裕和監督は、これまでは基本的に子どもには台本を渡さずに口頭でセリフを伝える演出をしていました。このおかげで、覚えたセリフをそのまま言うような段取りくささのない、子どもの自然な言動を引き出しているのです。そのため、子どもが想定どおりの言動をしないこともあるのですが、だからこその子どもの自然な反応を作品に生かしているのです。良いアドリブを引き出せたときは脚本にあったセリフや要素を削除または変更し、現場で“差し込み”と呼ばれる修正箇所のプリントが配られることも珍しくなかったそうです。
それでいて、是枝監督作には何気ない言動だと思っていたことが伏線として回収される脚本の巧みさもあります。映画の中の子どもはまるでドキュメンタリーを見ているかのように自然な姿であるのに、振り返ってみればフィクションの物語がロジカルに構築されていることが分かり、うならされるのです。これが是枝監督作品の醍醐味(だいごみ)の1つと言えるでしょう。
>次のページ:今までの是枝作品と、『怪物』の“決定的な違い”