なぜ今「チリワイン」が高級化しているのか? 古臭い大量生産の“安酒”イメージからの脱却

大量生産の安旨ワインから、小規模の高品質ワインへ。チリワインが変わりつつあります。世界的にも注目が高まりつつあるMOVI(独立系醸造家ムーブメント)について、チリワインに詳しい佐藤正樹さんに話を聞きました。

安旨のイメージが強いチリワインに変化 画像出典:shutterstock
チリワインといえば、どんなワインをイメージしますか? おそらく「安くておいしい」が1番多い声ではないでしょうか。
 

チリワインは、日本への輸入量において2021年こそフランスワインに抜かれましたが、2015年から6年間首位を保っていました。ワインを飲んだことがある人であれば、アルパカや天使、自転車がラベルに描かれたワインを一度は目にしているはずです。
 

手に入りやすく「安くておいしい」チリワインですが、それだけがチリワインではなくなってきています。
 

そんなチリワインのダイナミクスを、自転車ラベルでおなじみ、日本におけるチリワインの火付け役「コノスル」を12年間担当し、現在はチリの小規模高品質ワインを取り扱うアークセラーズの佐藤正樹さんに話を聞きました。
 

造れば売れた、時代の寵児チリワイン

チリワインが大量生産に舵を切ったのは、時代の要請でもありました。もともとチリがブドウ栽培に適した気候風土であることは、多くの文献やサイトでいわれている通りです。
 

19世紀にフランスのブドウ樹がフィロキセラという害虫によって多大な被害を受ける以前に、鉱業ビジネスで財を成した人々がフランスの苗木をチリに持ち込んだことが本格的なブドウ栽培のきっかけとなっています。
 

1973年のクーデターを機に海外からの積極投資を募っていく中で、チリはワイン産地としての恵まれた土地と気候、安い人件費が可能にするリーズナブルなワイン造りで注目されるようになっていきました。さらに1983年にアメリカの一大ワイン産地カリフォルニアがフィロキセラに襲われると、不足分を補うようにチリの濃厚な赤ワインが次々と輸出されるようになりました。
 

また90年代には、日本のポリフェノールブームに端を発した赤ワインブーム到来で日本に向けた輸出も始まり、当時はまさに「造れば売れる」状態だったといいます。
 

そして次第にチリワインは、半ば時代の要請に応えるように安くておいしいワイン産地として成長していきました。
 

「コノスル」人気による、ある種の画一化

しかし、時代の寵児(ちょうじ)としてのチリワインはそれだけでは終わりません。新入社員として「コノスル」を扱うスマイルの酒類事業部に入社した佐藤さんは言います。
「コノスルほど時代に恵まれ、時代の流れを上手につかんだワイナリーは他にないのではないでしょうか?」
 

佐藤さんがそう語る理由は以下の通りです。
 

・コノスルが輸入されていた時期は、ちょうどネットショップ黎明(れいめい)期から全盛期で爆発的な勢いがあった

・当時、他が注力していなかったピノ・ノワール(赤ワイン用ブドウ品種)に注力し始めた数年後、映画『サイドウェイズ』を通じて世界的な人気品種になった

・オーガニックワインといえば割高でおいしくないイメージだった時代に、安くておいしい、いわばオーガニックワインの入門編としての地位を確立

・酒販免許(酒類販売業免許)制度緩和の中でスーパーやコンビニなどでも販売されるようになり、一気に消費者へアクセスしやすくなった

・チリとの経済連携協定(EPA)によりチリワインの値段が段階的に安くなっていくという自然なパブリシティを獲得することができた
 

細かく挙げていけばキリがないというほどで、気がつけば上位10社のワイナリーが総生産の7、8割を占めるという大手による集約化が進んでいきました。生産を効率化しつつ、巨大な資本力を背景に質の追求も行っていく、という大手数社による独占はもはや止めようのない状態になっていきます。
 

大量生産はチリ国内におけるワインの認知を広めたものの、ワインはちょっと古臭い安酒という認識に……。

>次のページ:小規模・高品質ワインの広がり

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