「奇跡の若女方」中村米吉が可愛すぎて話題、新作歌舞伎の最先端『ファイナルファンタジーX』の魅力

世界的な名作ゲーム『ファイナルファンタジーX』が新作歌舞伎に……。3年がかりで実現した“ありえない”組み合わせのエンタメが大きな話題を呼んでいます。なかでもユウナ役・中村米吉さんのかれんさはSNSなどでも話題に。

不朽の名作ゲームが新作歌舞伎に

世界的な名作ゲーム『ファイナルファンタジーX』が新作歌舞伎として、東京・豊洲の360度客席回転劇場で上演――。一見、“ありえない”組み合わせのエンタメが3年がかりで実現し、大きな反響を呼んでいます。

ユウナ(左=中村米吉)とティーダ(右=尾上菊之助)撮影:引地信彦 (C)SQUARE ENIX/『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』製作委員会

誕生のきっかけはコロナ禍のステイホーム期間中、花形役者の尾上菊之助さんが、かつてプレイしていたゲーム『ファイナルファンタジーX』を手にしたこと。登場人物たちが葛藤を乗り越えながら手を携えて目的に向かって進む物語を「今こそ歌舞伎化したい」と思い、企画に乗り出したのだそうです。

多方面の協力を得て実現した舞台は、和楽器を使った“幽玄の世界”感たっぷりのサウンドが降り注ぐ中、回転劇場の機構を生かしてスピーディーに展開。歌舞伎とあって、全ての役を男性が演じていることで非日常感がさらに高まり、まさに異次元に旅しているような心地を味わえる数時間となっています。
 

そんな舞台の中で「ゲームから抜け出てきたみたい!」とSNSでも話題なのが、ヒロインのユウナ役。かれんなルックス、たおやかな所作もさることながら、何より驚異的なのが、“裏声”然としたところがなく、ちょっと甘めな中に凛とする「女の子らしさ」が終始キープされた、その声です。
 

SNSで話題! ユウナ役の中村米吉さんに質問

演じているのは、中村米吉さん。早くからその才能が注目され、古典の大役はもちろん、2022年は新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』でタイトルロールに挑むなど、歌舞伎界で嘱望される若手女方ですが、今回世界的に知られる『ファイナルファンタジーX』でヒロインを演じたことで、新たに彼を知った人も多いようです。公演中の某日、取材に応じてくれた米吉さんですが、そもそも歌舞伎役者さんにとって、ゲームは身近なものなのでしょうか?

ユウナ(中村米吉)(C)SQUARE ENIX/『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』製作委員会

「楽屋で空き時間にSwitchをしている人もいますし、気軽にスマホなどを通して、幕間に遊んでいる方は多いですよ。子どもの頃に同世代のみんなと楽屋で『モンスターハンター』とかをやって、騒ぎすぎて怒られたこともあったかな(笑)。ただ、今回舞台化された『ファイナルファンタジーX』に関しては、発売が2001年で僕はまだ小さかったので、リアルタイムでは遊んでいませんでした」

“ゲーム”と“歌舞伎”に、共通項はあるのでしょうか。

「どちらも、日本が世界に誇る文化であること、RPG(ロール・プレイング・ゲーム)はパズルやアクションゲームと違って物語性がある、という点では共通していますが、それ以外には、これといったものは思い当たらないです。
 

ですので、今回この作品の企画を聞いた時には、ちんぷんかんぷんだったというのが正直なところでしたね。出演にあたって原作ゲームをプレイし、クリアしていましたので、最初に台本を読ませていただいた時には、ゲームの中のセリフがほとんどそのまま使われていて、非常に忠実に再現している台本なんだな、ということをまず感じました。
 

また、以前、菊之助兄さんがお作りになった新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』の時には、原作で“わあ、きれい”だったセリフが、歌舞伎では“なんと気高く美しい”になっていたりと、歌舞伎の文法に則った口調に変わっていました。ですが、今回は基本的には現代的な言葉づかいになっていますし、そういう意味では、台本を読んだだけではどんな舞台になるのか、未知数なところが多かったです」

中村米吉 | 1993年、五代目中村歌六の長男として生まれる。2000年に五代目中村米吉を襲名し、初舞台。2011年より女方を志し、2015年『一條大蔵卿』奥殿の常盤御前他で名題昇進。ラスベガスでの初の歌舞伎公演『鯉つかみ』などの海外公演にも出演。22年には『風の谷のナウシカ』でタイトルロールを演じた。2023年には『ママはバーテンダー~今宵も踊ろう~』(BS-TBS)でドラマにも出演

神秘的な“異界送り”シーンは大きな見どころ

ユウナは、主人公ティーダや仲間たちと共に、世界を恐怖で支配するシンに立ち向かってゆく、心優しくも芯のある少女。彼女が死者の霊を鎮め、異界に送る儀式“異界送り”の場面は神秘的な美しさに満ち、大きな見どころとなっています。

「植松伸夫さんが作曲なさった原作ゲームの音楽『祈りの歌』を、新内多賀太夫さんが和楽器でアレンジしてくださり、振付の尾上菊之丞先生が振りを作って下さいました。感覚としては、歌舞伎舞踊を踊っているというより、ゲームに登場する“異界送り”をそのままやって、そこに少しだけ加筆されているといった感覚に近いですね。
 

事前に撮らせていただいたプロモーション用動画では、全く舞台装置のない中で踊りましたが、本番では舞台装置がありますし、最後にはクレーンに乗ります。いかにも“クレーンに乗っています”というようには見えないよう、ちょっとつま先立ちになってかかとを浮かせ、いくばくか足を動かしてみる……といった工夫はしております。第一幕の幕切れにあたりますので、美しく、どこか荘厳な雰囲気の中で終われるよう、意識しています」
 

他の見どころについては、
 

「まずは前編後編を通して御覧になることをおすすめします。そうしていただくことで、例えばユウナがあそこでああいうことを言っていたのはそういう意味だったんだ、周りの人々の反応にはこういう真意が隠されていたのか、といった発見がたくさんあると思います。原作のゲームそのものがそういう作りになっているので、通しで観て頂いた上でもう一度はじめから観て頂くと、一つ一つの要素が粒だってさらに楽しんでいただけると思います」
 

と、米吉さん。
 

一般的に歌舞伎の演目で“メッセージ性”を探すことはあまりそぐわないといわれますが、本作ではいかがでしょうか。
 

「古典歌舞伎も、実はメッセージ性がないわけじゃないんですよ。例えば『熊谷陣屋』『盛綱陣屋』といった演目はある意味では反戦的なお芝居で、忠義に加えて親子の情愛も描かれています。“メッセージ”というより、“根底にある”と言いましょうか。
 

今回の『ファイナルファンタジーX』の根底にあるのは、ひたむきに立ち向かっていく、生きていくということでしょうか。絶望的な世界の中でも希望をもって生きていくことで、最終的には、まやかしの希望でなく本当の希望を得られるということを感じていただけると思いますし、そういう世界観の中に親子の情愛だったり友情だったり、人を思いやる気持ちがちりばめられているのがこの作品の良さなのではないかなと思います」

最先端といえる「ゲームの歌舞伎化」

歌舞伎には元来、他ジャンルのモチーフを旺盛に取り込みながら発展してきた歴史があり、能狂言、人形浄瑠璃や落語の人気作品は多数歌舞伎化されていますが、今回の“ゲームの歌舞伎化”は、間違いなくその最先端といえるでしょう。新作歌舞伎には数々出演歴のある米吉さんですが、“どこまでが歌舞伎の範疇(はんちゅう)か、何が歌舞伎の定義なのか”という課題については、常に考えていると言います。
 

「これまでも『ONE PIECE』や『風の谷のナウシカ』など、およそ歌舞伎になりえそうにないものが歌舞伎化されてきましたが、今回のようにゲームが題材になってくると、もはや歌舞伎とそうでないものとの線引きがどこにあるのか、誰にも分からない段階になってきているのかもしれません。お客さまに委ねるしかない、と言いますか。
 

例えば、ツケ(バタバタと、人物の登場時や立ち廻りの際に入る音)が入れば歌舞伎なのか? というと、劇団☆新感線さんの芝居ではツケの音が入るけれど歌舞伎というわけではないですよね。では、下座音楽が入れば歌舞伎なのかというと、新派でも下座音楽は入ります。
 

では何が歌舞伎かというと、“歌舞伎役者がやれば歌舞伎なのだ”という、ある種の開き直り的な言葉を使うしかなくなってきているのかもしれません。ですが、歌舞伎役者がやるから歌舞伎なんだというのは、徹底的に歌舞伎が体に染み込んだ役者がやるからそうなるわけですので。今の私ができているのかどうかということに関しては、まだまだだと思います。
 

その上で今回、私の中ではいかに原作の世界観、キャラクターを舞台の上に乗せ、女方として表現するのかということを大切に勤めています。私は女方ですので、男が女性を演じるという歌舞伎独特の芝居ができるアドバンテージがありますが、例えば立役さん(男性の役を演じる役者)は、見得をする場面がなくなったら、今回の作品で用いられている登場時の名乗りがなくなったらどうなるのか、それがなくても歌舞伎になるのか……。これからも新作に出演する度、こうした課題はなくならないと思っています」
 

「2.5次元」舞台を意識している?

漫画やゲームを原作とする舞台という点で、昨今人気の“2.5次元”舞台は意識しているでしょうか。
 

「2.5次元の舞台は、原作ファンの方をたくさん劇場に引き寄せていらっしゃるし、2.5次元の舞台そのものを好きな方も増やしていて、一つのジャンルとして確立されていますよね。再現度の高さも素晴らしいと思います。今回の衣装もそうですが、歌舞伎の場合、“歌舞伎のフィルターを通すとこうなりますよ”というふうにかなりアレンジしていますので、2.5次元の、原作を徹底的に尊重して作っていらっしゃる舞台は本当にすごいと思います」

シーモア(左=尾上松也)とユウナ(右=中村米吉)撮影:引地信彦 (C)SQUARE ENIX/『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』製作委員会

ご自身についても少し伺いました。まず、本作や、その一つ前に出演されたフランス戯曲『オンディーヌ』でも披露した愛らしい“女の子声”は、修行の成果でしょうか。
 

「ボイストレーニングをやったりということはありませんが、もともと地声が低い方ではないのと、女方を始めて12年になり、義太夫・常磐津・長唄といろいろお稽古したり、経験も積んでおりますので、その兼ね合いでこうした声が出るようになったのかもしれません。オンディーヌにしても今回のユウナにしても、古典の作品の調子でやってしまうとセリフが成立しませんので、一番適したピッチはどこかというところを探して、出すようにしています。
 

ですが、声を褒めていただくたび、他の部分がおろそかになってしまわないか、声に逃げてしまってはいけないな、とも強く思っております」

声の美しさで知られる父、中村歌六さんは立役であるため、直接教わることは少ないものの、(先輩方から)“きちんと教われるようになりなさい”というアドバイスは大切にしている、という米吉さん。『オンディーヌ』で歌舞伎以外の演目にも初挑戦し、今後さまざまな活躍が期待されます。
 

「お声があれば何でもやらせていただきたいです。目指すのは、とにかくお客さまに喜んでいただける役者です。歌舞伎ってそういうところがあって、何でもないように見えるけれど、出てきただけでお客さまを喜ばせなくちゃいけない…という役がいっぱいあるんです。理屈抜きの芝居も多いですしね。
 

そういうお役の良さが(理屈が求められる現代では)どんどん伝わらなくなるということもあると思いますが、それでも出てきただけで喜んでいただけるような役者にならなくちゃいけないと思っています。それは見た目や声がいいというだけでなくて、芝居も踊り、歌舞伎役者に必要な素養が全て必要ですよね。何か欠けていたら心底は喜んでいただけないと思いますので、全部そろった役者になりたいです。そして今回の『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』であれば、女優さんがやれるのにわざわざ女方がユウナを演じていることの意味を感じていただけるよう、歌舞伎の女方だからこそ、という役をいかに作り上げるか。そうした課題に取り組んでいきたいです」

<公演情報>
木下グループpresents『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』上演中~4月12日=IHIステージアラウンド東京

(C)SQUARE ENIX/『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』製作委員会

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