ヒナタカの雑食系映画論 第15回

LGBTQ+を描く日本映画の「現在地」。“まだここ”と感じる描写から「大げさではない表現」に向かうまで

映画『エゴイスト』が話題の今、「日本のLGBTQ+映画の現在地」を改めて考えてみました。「不幸」を描くことが多かったLGBTQ+への向き合い方が変わっていく、その「過渡期」であると思うのです。※画像出典:(C)2023 高山真・小学館/『エゴイスト』製作委員会

「特別視」しない、もっと多様な描き方があっていい

前述したように、2020年の『ミッドナイトスワン』は高い評価を得る一方で、LGBTQ+の当事者からの反発を招きました。その意見には、真摯に耳を傾ける必要があるでしょう。トランスジェンダーの苦悩や生きづらさを、あくまで一例として「今まで知り得なかった人」に届ける意義は大きいとは思いますが、「LGBTQ+のキャラクターのかわいそうな姿ばかりがクローズアップされていた」ため、やはり「日本のLGBTQ+映画はまだ過渡期」だと思ったのです。

しかし、前述した『世界は僕らに気づかない』は「LGBTQ+であることを特別視しない」作品でした。さらに、LGBTQ+がメインテーマでなくとも、『子供はわかってあげない』『ちょっと思い出しただけ』『ウェディング・ハイ』など、LGBTQ+のキャラクターが自然に登場する作品が、日本でも生まれ始めています(筆者のツイートではそれ以外にもご意見をいただきました)。

また、2023年2月23日よりNetflixで配信スタート、一部で劇場上映されている『ちひろさん』には、トランスジェンダーを公言しているモデルのvanが出演。演技初挑戦ながら、「バジル」という役柄と見事にマッチした存在感を見せており、“当事者キャスティング”が光ります。それ以外でも、「男女の関係は恋愛だけではない」など、多様な関係性や価値観が描かれる内容にもなっていました。
 

繰り返しになりますが、映画で描かれるLGBTQ+のキャラクターが、「不幸だったりかわいそうな姿」だけでいいはずがないのです。今後の日本映画で、その存在がもっと「当たり前」に、多様に描かれることを、願ってやみません。


>最初から読む


※各動画配信サービスの情報は執筆時(2023年2月27日現在)のものです。最新の内容をご確認ください。


【おすすめ記事】
いい意味で“居心地が悪くなる”名作?「有害な男性性」を描いた映画作品を振り返る
「R15+」と「R18+」の線引きはどこ? 子ども向けでもPG12? 意外と知らない「映画のレイティング」の基準
映画ポスターの「右肩上がり手書き文字」はなぜ流行っている? 作品の“エモさ”を引き出す理由を分析してみた
『すずめの戸締まり』の“まるで時刻表”な上映回数に賛否。大作の優遇は「仕方がない」ことなのか
映画作品は「ネタバレ前提」が主流の時代? “要約文化”が台頭する今だからこそ伝えたいネタバレ論
Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

連載バックナンバー

Pick up

注目の連載

  • ここがヘンだよ、ニッポン企業

    「あれは全て私がやりました!」 わが社の“承認欲求モンスター”をどう扱うべきか?

  • ヒナタカの雑食系映画論

    実写ドラマ版『【推しの子】』絶賛レビュー! 齋藤飛鳥が完璧で究極の「星野アイ」だった理由

  • 世界を知れば日本が見える

    「民主主義の崩壊」兵庫県知事選、なぜ“陰謀論”が広まったのか。日本が「選挙×SNS」を対策できないワケ

  • 恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」

    静岡の名所をぐるり。東海道新幹線と在来線で巡る、「富士山」絶景ビュースポットの旅