ヒナタカの雑食系映画論 第15回

LGBTQ+を描く日本映画の「現在地」。“まだここ”と感じる描写から「大げさではない表現」に向かうまで

映画『エゴイスト』が話題の今、「日本のLGBTQ+映画の現在地」を改めて考えてみました。「不幸」を描くことが多かったLGBTQ+への向き合い方が変わっていく、その「過渡期」であると思うのです。※画像出典:(C)2023 高山真・小学館/『エゴイスト』製作委員会

4:『劇場版 きのう何食べた?』(2021年)


同名の漫画を原作としたドラマの劇場版ですが、物語は独立しており、予備知識なく観ても問題なく楽しめます。基本的には日々の食事を通じたほのぼのとしたやりとりが展開する、生真面目な西島秀俊と、キュートな内野聖陽のカップルをいつまでも見ていたくなる内容でした。

旅行の途中で「ショッキングな話を切り出す」ことから始まる「すれ違い」が描かれることも重要です。とても仲が良く、表面的にはなんの問題もないように思えても、やはり自身たちが同性愛者であるがゆえの悩みが2人の間にはある。それでも、日々ご飯を食べて、当たり前に過ごすことそのものの尊さを示してくれました。現在はAmazonプライムビデオで見放題です。
 

5:『そばかす』(2022年)


アセクシュアル(他者に対して、性的欲求や恋愛感情を抱かないセクシュアリティ)の30歳の女性を描いた作品。母から勝手にお見合いまでセッティングされるなど、「普通の結婚」を押し付けられるようなプレッシャーをかけられてしまいますが、結婚よりも友達付き合いを求める男性、ゲイであることを明かす元同級生、そして元セクシー女優の元同級生などと出会い、多様な価値観を知っていくことになります。

「王子様と結婚してハッピーエンド」になる『シンデレラ』に対するアンチテーゼを示すのも面白く、かと言って、そればかりを押し付けないバランスも見事でした。三浦透子と前田敦子が演じるキャラクターの関係性はずっと観ていたくなるほどに尊いもので、LGBTQ+の当事者はもちろん、「他の人とは違う」疎外感を覚えている人にとっての福音になるでしょう。
 

6:『世界は僕らに気づかない』(2023年)


フィリピン人の母を持つゲイの高校生を主人公とした、母との確執や「父親探し」を主軸とした物語です。重要なのは「ゲイである」ことが悲劇につながらないこと。恋人と仲違いをすることはあるのですが、それは本人の内面と、現状でぶつかっている将来の悩みやアイデンティティの問題のため。アセクシュアルの女の子や、パートナーシップ制度についても現実的かつ真摯に描かれていました。

監督・脚本を手掛けた飯塚花笑がトランスジェンダーである自身の経験を基に撮った作品であり、インタビュー(※)では「セクシュアルマイノリティに関わる企画を立ち上げようとすると、そのことに悩んでいたり葛藤して苦しんでいる、という物語を求められる」こと、それでも「セクシュアルマイノリティであることを特別視しているつもりはなく、ナチュラルに背景として描いている」ことを明言しています。はっきりと、LGBTQ+を「特別視しない」ことを意識した映画といえるでしょう。

※参考
【単独インタビュー】『世界は僕らに気づかない』​​飯塚花笑監督が光を当てる移民の母と息子の愛の模索 | Fan's Voice〈ファンズボイス〉
 

7:『エゴイスト』(2023年)


エッセイスト・高山真の自伝的小説の映画化作品で、ファッション誌の編集者の男性と、母を支えながら暮らすパーソナルトレーナーが惹かれ合う様が描かれています。特徴的なのは2人の経済力に差があること。主人公は、金銭などを好きな相手に与え、自身が満たされることを「エゴではないか」と疑問を持ちながらも、「自分がやれることはこれしかない」と感じているように見えました。

直接的な性描写があり、R15+指定がされていますが、意外にほのぼのとしてクスクス笑えるシーンもあって、自然なやりとりが丁寧に描かれています。だからこそ、切なくも愛おしくなる関係性を見守りたくなる内容でした。

後半の展開は、一時的にある種、物語の「型」にはまった印象もありますが、実話を元にした作品である以上、それからの物語を紡ぐことが重要だったのでしょう。鈴木亮平はもちろん、『his』でもゲイの男性の繊細な心理を表現した宮沢氷魚にも注目してほしいです。


>次のページ:LGBTQ+を「大げさでない表現」で描く外国映画。日本映画との差は?


※各動画配信サービスの情報は執筆時(2023年2月27日現在)のものです。最新の内容をご確認ください。


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