ヒナタカの雑食系映画論 第15回

LGBTQ+を描く日本映画の「現在地」。“まだここ”と感じる描写から「大げさではない表現」に向かうまで

映画『エゴイスト』が話題の今、「日本のLGBTQ+映画の現在地」を改めて考えてみました。「不幸」を描くことが多かったLGBTQ+への向き合い方が変わっていく、その「過渡期」であると思うのです。※画像出典:(C)2023 高山真・小学館/『エゴイスト』製作委員会

不幸なだけじゃない、「当たり前」に描かれるLGBTQ+映画の興隆の意義

映画でどのようにLGBTQ+、特にトランスジェンダーがどのように描かれてきたかは、Netflix配信の『トランスジェンダーとハリウッド:過去、現在、そして』を観ると分かりやすいでしょう。
 

その中では、「映画やドラマで描かれるトランスジェンダーは、犯罪者となったり、殺されたり死ぬことが多い」「同性愛者が死ぬ伝記映画は映画祭で受賞しやすい」など、描かれ方そのものがショッキングで、それが「大衆映画に求められていた」という事実が語られています。

もちろん、悲劇的な物語だからこそ伝わるものもあるでしょうし、逆説的に、当事者の尊厳を訴えることにもつながるでしょう。しかし、「涙を誘うかわいそうな姿」ばかり描かれるのは、ステレオタイプなイメージを助長したり、偏見を生んだりすることにもなりかねません。不幸を描く物語が一概に悪いわけではありませんが、LGBTQ+のキャラクターがポジティブに振る舞ったり、人生を謳歌したりする作品があってもいいはずです。

世界的に見れば、昨今では『デッドプール2』『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』『ミッチェル家とマシンの反乱』『バズ・ライトイヤー』『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』など、LGBTQ+のキャラクターが「大げさでなく」登場する映画が多数世に送り出されています。

2023年3月3日から公開される、アカデミー賞最有力候補である『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』も、主人公の娘がレズビアンであることがごく自然に示されていました。
 

「ごく普通の主婦がマルチバースに迷い込みカンフーで戦う」という一見トンデモな内容でありながら、LGBTQ+映画としても真摯な作品だったのです。


>次のページ:悲劇的な描写だけでなく、もっと多様な描き方があっていい


※各動画配信サービスの情報は執筆時(2023年2月27日現在)のものです。最新の内容をご確認ください。


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