2023年2月10日より映画『エゴイスト』が公開されており、絶賛の口コミや、主演・鈴木亮平が真摯(しんし)に同性愛者の役に向き合ったことが分かる、種々のインタビューが話題となっています。
LGBTQ+を描く作品は世界中で作られており、近年の日本でも高く評価される映画が世に送り出されています。しかし日本では、同性婚の法律化がいまだ認められておらず、為政者の差別的な発言が物議を醸す現状があります。
また、LGBTQ+の映画では、(一概にそうした作品が悪いというわけではありませんが)過去では「不幸」を描くことが多かったものの、今では世界的にLGBTQ+のキャラクターが「当たり前に」「大げさでなく」登場する作品も多くあります。しかし、日本のLGBTQ+の映画はまだまだ「過渡期」。世界的な潮流からすれば、少し遅れていると思うところがあるのです。
まさに今「過渡期」であることが分かる、『エゴイスト』を含む近年の日本のLGBTQ+を描いた映画7作品と、その現在地を振り返ってみましょう。「まだここ」だからこそ、今後にも期待が持てるはずです。
1:『カランコエの花』(2018年)
高校のクラスで唐突に「LGBT(Q+)について」の授業が行われ、クラス内に「当事者がいるのではないか?」といううわさが広まっていく過程が描かれる、39分間の短編映画です。さまざまな伏線が積み立てられており、観終わってすぐにもう1度観たくなる巧みな構成になっていました。
LGBTQ+の当事者ではなく、周囲の人々の視点で進行することで「過剰な配慮」がどのように生まれ、波及していくのか。その過程は恐ろしいほどに「現実のどこかにあるもの」と思えるものでした。悲しく苦しい物語ではありますが、だからこそ「どうするべきか」を学べるはずです。現在はU-NEXTで見放題です。
2:『ミッドナイトスワン』(2020年)
トランスジェンダーの主人公と、孤独だった少女が擬似的な家族関係を築く物語。とにかく、主演の草なぎ剛(※)が素晴らしく、ご本人の繊細さや優しいイメージが、「本当にこうして生きてきた人なんだ」と思わせる役柄と見事にリンクしていました。
トランスジェンダーの日常的な暮らしや苦しみが丹念に描かれており、少女が学ぶバレエというモチーフがその対比となり、主人公2人の関係が変化していく様も見応えがあります。
ただし、後半の展開はあまりに悲劇的で、畳み掛けるような不幸の物語が強調されており、現状との差異があることも含め、LGBTQ+の当事者からの強い反発を生みました。筆者個人も、とあるショッキングな出来事が、それ以降の物語でまったく触れられなくなることに違和感を覚えました。批判意見も含め、議論を交わすことに意義のある作品でもあることは確か。現在は配信サービスで見放題ではありませんが、レンタルで鑑賞できます。
※「なぎ」は、弓へんに前の旧字体、その下に刀
3:『彼女が好きなものは』(2021年)
青春恋愛小説の映画化作品で、ゲイの高校生の苦悩と、BL(ボーイズラブ)が好きな女の子の気持ちを並行して描く物語です。主に描かれるのは、自分が知らなかった世界や価値観を知ろうとするアプローチ。人と人が関わり合うコミュニケーション、相互理解の尊さを示した映画とも言えるでしょう。神尾楓珠や山田杏奈を筆頭とした実力派の若手役者が演じてこその、青春模様も重要でした。
PG12指定で、成人と高校生が性的な関係を持つインモラルな描写があるほか、アウティング(性的指向などを第三者に暴露すること)による悲劇が起こるなど、やはり不幸が描かれた作品でもありました。しかしながら、観客に対し、「簡単に分かったような気になってはいけない」「でも知ろうとする気持ちは大切にしてほしい」と願う作り手の誠実さは伝わるため、個人的には大いに支持をしたい作品です。現在はNetflixで見放題です。
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※各動画配信サービスの情報は執筆時(2023年2月27日現在)のものです。最新の内容をご確認ください。
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