「目が笑ってない」ムロツヨシの不気味さが“本性”に近い?『どうする家康』は秀吉をどう描くのか

豊臣秀吉といえば、ひょうきんで陽気な性格でこれまで時代劇などで描かれてきましたが、果たしてそれは秀吉の実像を示すものだったのでしょうか? 知られざる秀吉の「本性」を見ていきたいと思います。

『どうする家康』は“軽すぎる”のか?

豊臣秀吉(※画像はイメージ)

大河ドラマ『どうする家康』(NHK)が放送されていますが、一部の大河視聴者からは「話が面白くない」「軽すぎる」として不評であり、ネット上では「どうする家康反省会」なるタグまで登場しています。
 

筆者は1990年代中盤頃より大河ドラマを視聴してきましたので、確かにその頃の大河と比較すると重厚さはなく、軽いノリで、若者向けに作られているのかなとは感じました。
 

しかし、これも新しい大河のかたちであり、1つの「挑戦」と見ることもできるでしょう。大河ドラマというのは難しいもので、軽すぎてもいけない、かと言って重厚すぎても若者が離れる場合もある。その中間を見据えて、それなりに史実に忠実に作っていくのがよいのではないかと勝手に考えています。
 

とはいえ筆者は小学生時代に大河ドラマ『武田信玄』(1988年放送/主演・中井貴一)の再放送を見てハマっていましたので、重厚なドラマに若者がついていけないというのは「大人」の勝手な思い込みかもしれませんが。
 

「ドM」と思いきや……大河の秀吉は不気味?

画像出典:NHK『どうする家康』公式サイト

さて、『どうする家康』の第4回「清須でどうする!」では、後に主人公・徳川家康の宿敵となる木下藤吉郎(後の豊臣秀吉。以下、秀吉)が登場しました。劇中で秀吉役を演じるのは、俳優のムロツヨシさん。初登場にして早くも視聴者に強烈な印象を残しました。織田家に仕える秀吉は、立場が上である柴田勝家(織田重臣)から急に強烈な蹴りを入れられてしまいます。
 

秀吉怒るか?と思いきや、そうではなく、ドンドン蹴ってくださいと言わんばかり。織田信長と面会するため、清須に来ていた家康主従にも、尻を向けて蹴りを要求する始末。それでは完全なる「ドM」の秀吉かというとそうでもなく、「目が笑ってない」ということで不気味な秀吉が期待されます。実は、こうした不気味で得体の知れない秀吉像というのは、実際の秀吉像に近いのではと私は感じています。
 

秀吉というと、特に大河ドラマにおいては、若い頃は陽気な人たらし。しかし信長死後、天下を獲る前後から、残酷で醜悪な人物に変化していく……というように描かれがちです。秀吉が主人公だった大河ドラマ『秀吉』(1996年放送/主演・竹中直人)でも、そう描かれていました。しかしそれは、秀吉の真の姿を伝えているのでしょうか?
 

秀吉の「正体」は……

歴史をさかのぼると、秀吉がまだ信長に仕えていた頃である1577年、秀吉軍は上月城(兵庫県佐用郡佐用町。城主は赤松政範)を包囲します。城に籠る側は、勝ち目がないと見て秀吉に詫びを入れてきますが、秀吉はそれを拒否。攻撃を仕掛け、上月城は落城しました。落城後、秀吉は敵兵の首をはねたばかりか、女・子ども200人あまりを捕まえます。そして播磨・備前・美作の国境において虐殺したのです(『下村文書』より)。

なかには城兵などの親族もいたでしょうが、非戦闘員に違いありません。ではなぜ、彼・彼女たちは殺されなければならなかったのか? 「敵方への見せしめのため」と秀吉はいったようですが、非戦闘員の大量処刑は残酷そのもの。秀吉は天下を獲ってから残酷で醜悪な“ワル”になったわけではないのです。

濱田 浩一郎プロフィール
歴史学者、作家、評論家。1983年大阪生まれ、兵庫県相生市出身。2006年皇學館大学文学部卒業、2011年皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は日本中世史。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。 著書『家康クライシス』ほか多数。
 

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