ヒナタカの雑食系映画論 第11回

スラダン、すずめ、トップガンだけじゃない。似たテーマの「同日公開」が豊作だった2022年映画を総括!

2022年の映画界の大きな話題と言えば、何が思い浮かぶでしょうか。ここでは、そうではない、ややニッチであるものの知ってほしい、「似たジャンルの映画が同日公開」「ジュブナイル映画」を中心に総括してみます。※画像出典:(C)2022「カラダ探し」製作委員会/(C)CHOCOLATE Inc.

2022年の映画の大きな話題といえばなんでしょうか? やはり、日本のアニメ映画『ONE PIECE FILM RED』が興行収入185億円超の大ヒット、さらには『すずめの戸締まり』も100億円を超え、『THE FIRST SLAM DUNK』も50億円を突破、洋画では『トップガン マーヴェリック』も130億円を上回るなど、コロナ禍を経ての超大ヒットが特に喜ばしいトピックとして上がるでしょう。
 

偶然と思えない? 似たジャンルの映画が同日公開!

ここでは、あえて知る人ぞ知るニッチな話題ではあるものの、興味深い2022年の映画のトレンドや、はたまた偶然の一致を紹介します。まずは、「同じようなジャンルやテーマの映画が同日公開されていた」例を挙げてみます。

 

7月8日の同日公開作品は「登山もの」

■『アルピニスト』
■『神々の山嶺(いただき)』

(C)2021 Red Bull Media House. All Rights Reserved.
(C)Le Sommet des Dieux - 2021 / Julianne Films / Folivari / Mélusine Productions / France 3 Cinema / Aura Cinema

『アルピニスト』は実在の風変わりで実力派の若手山岳登山家を追ったドキュメンタリーで、後者は日本の(小説を原作とした)漫画をフランスでアニメ映画化した作品。いずれも命の危険がある挑戦に対しての、特別な価値観が切実につづられています。『神々の山嶺』は1月6日よりAmazonプライムビデオで見放題です。
 

7月15日の同日公開作品は「ワンカット映像&お仕事もの」

■『キャメラを止めるな!』
■『ボイリング・ポイント/沸騰』

(C)2021 - GETAWAY FILMS - LA CLASSE AMERICAINE - SK GLOBAL ENTERTAINMENT - FRANCE 2 CINEMA - GAGA CORPORATION
(C)MMXX Ascendant Films Limited

『キャメラを止めるな!』は、皆さんご存じ、2017年に大ヒットした日本のインディーズ映画『カメラを止めるな!』のフランス版リメイク。『ボイリング・ポイント/沸騰』は、多忙を極めるレストランの裏側の事情をノンストップで描いた作品。どちらも編集なしの「ガチ」のワンカット映像が売りで、その手法だからこその仕事の尊さや、後者では特に胸が痛くなるほどの人間関係の苦しみを描いています。
 

8月5日(6日)の同日公開作品は「実際の未解決事件に迫るドラマ」

■『L.A.コールドケース』
■『とら男』

※前者は8月5日、後者は8月6日と正確な公開日は1日違い

(C)2018 Good Films Enterprises, LLC.
(C)「とら男」製作委員会

『L.A.コールドケース』は、有名ラッパーの殺人事件の謎をジョニー・デップ主演で描いた作品です。『とら男』は、元刑事が本人役として主演を務め、しかも自身が捜査にあたった事件を女子大生とコンビを組んで追うという「セミドキュメンタリー」的な作品。両者とも、実際の未解決事件を題材としているため、犯人を成敗するようなカタルシスはないものの、だからこそ誠実な作品になっていました。
 

10月14日の同日公開作品は「ループもの」

■『カラダ探し』
■『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』


※『MONDAYS 』は10月14日より先行公開、2週間後の10月28日より全国公開

(C)2022「カラダ探し」製作委員会
(C)CHOCOLATE Inc.

『カラダ探し』は同名の小説を原作としたティーン向けホラー。『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』は、低予算のインディーズ映画ながら、絶賛の口コミが寄せられヒットした話題作。両者とも同じ時間を繰り返す中で、この状況の「攻略法」を導き出していく様が楽しく仕上がっていました。前者は、PG12指定ならではのショッキングな描写、後者は現実の仕事へフィードバックできる学びが得られるのも長所です。
 

11月23日の同日公開作品は「親子3代にわたる愛憎劇」

■『母性』
■『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』

(C)2022映画「母性」製作委員会
(C)2022 Disney. All Rights Reserved.

『母性』は、とある事件の一部始終を母と娘それぞれの視点で語る、サスペンスドラマ。『ストレンジ・ワールド』は、伝説的な冒険一家が世界を救うために立ち上がる、ファミリー向けのアニメ映画。主たるジャンルそのものは全く違うものの、まさかの親子3代による愛憎入り混じる心理、特に「祖母(祖父)と母(父)が子どもの教育方針を巡って意見が真っ向から食い違う」様が一致していたのです。『ストレンジ・ワールド』は現在ディズニープラスで見放題です。
 

まさかのシンクロをしたアニメ映画も?

さらに、同日公開ではないものの、まさかのシンクロをしたアニメ映画も2組あります。1組目は、8月26日公開の『DC がんばれ!スーパーペット』と10月7日公開の『バッドガイズ』
 
(C)2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
(C)2021 DREAMWORKS ANIMATION LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
動物が主役の3DCGアニメ映画というだけでなく、ネタバレになるので言えないない、とある共通点が一部で話題になっていたのです。どちらも「親友だと思っていた相手への愛憎入り混じる感情」が切なく尊く面白い、大人にもおすすめしたい秀作でした。

2組目は、年末年始の今も劇場で公開中のすずめの戸締まり『かがみの孤城』
(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会
(C)2022「かがみの孤城」製作委員会
 
両者は「少女を主人公にした日本のアニメ映画」という他にも、これまたネタバレになるので言えない共通点があります。両者を観れば、それぞれの作り手の優しさがより伝わるのではないでしょうか。それでいて、前者は描きこまれたアニメの演出が盛りだくさん、後者は実写映画に近い繊細で抑えた演出が光る、対照的な作風にもなっていました。

こうしたまさかのシンクロは、送り手からすればライバル作品とのバッティングという点で、歓迎するべきことではないのかもしれません。しかし、上記の作品は、似た要素があっても全く異なる印象を受けるポイントが多く、むしろ合わせて観れば映画という「媒体の多様性」を感じられるのではないでしょうか。

 


また、前述した『アルピニスト』の公式Twitterは、『神々の山嶺』だけでなく、キャンプもする映画という共通点がある、1週前に公開された『映画 ゆるキャン△』とハシゴ鑑賞の順番を提案する、たくましいツイートをしていました。


>次のページ:少年少女の関係性や成長を描く「ジュブナイル作品」も豊作!


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