Jアラートのサイレンが不気味なワケは音の構造にあった? DTMライターが音楽的な側面から分析

Jアラートで使われる国民保護サイレンに、SNS上では「不気味」「怖い」といった声も上がっているようです。サウンドの背景を、DTM(デスクトップ・ミュージック)・デジタルレコーディングライターが音楽的、オーディオ的な側面から分析します。

地震や津波など、緊急事態発生時に携帯から大きな警報音が鳴り出したり、テレビやラジオ放送で速報が流れたり、自治体による防災無線などの設備でサイレンが流れたり……ということがしばしばあります。
 

これらの音を聴くと不安を感じます。不快、不気味、恐怖……など受ける印象に違いはあるものの、ほとんどの人は、これを心地よく感じたり、楽しい感じを持ったりはしないでしょう。
 

それは、不安を駆り立てて、避難や注意を促す意図で作っているからです。こうした警報音の中でも、今回はJアラートに使われている国民保護サイレンを取り上げます。北朝鮮による弾道ミサイルの発射もあり注目度が高まっている国民保護サイレンに、SNS上では「不気味」「怖い」といった声も上がっているようです。サウンドの背景を、DTM(デスクトップ・ミュージック)・デジタルレコーディングのライターである筆者が、音楽的、オーディオ的な側面から分析してみます。
 

国民保護サイレンってどんな音?

まずはその国民保護サイレンとはどんなものなのかお聴きください。

関東に住んでいると、国民保護サイレンが鳴るということはこれまでほとんどありませんでした。実は個人的にも、このJアラートの国民保護サイレンが鳴っている場面に遭遇したことはありません。しかしニュースなどでサイレン音を聴くと、確かに不安に感じます。
 

とはいえ、テレビでアナウンスなどのバックに国民保護サイレンが鳴っているというレベルでは、「ふ~ん」と他人事に捉えるレベルで、そこまで恐怖を感じるわけではありません。ですが、自宅に1人でいるときに携帯から大きな音で鳴り出したら不気味ですし、恐怖にさらされると思います。また、町中のスピーカーから鳴り響いたとすれば、反響音も相まって、怖さが何倍にもなりそうな気がします。
 

もちろん消防車などのサイレンも気持ちの良い音ではないですが、なぜ国民保護サイレンはより不安感をあおるのでしょうか?

 

消防車のサイレンと比べると……

そこで、消防車のサイレンと国民保護サイレンをそれぞれ周波数分析をする形でグラフ化してみました。

消防車のサイレンの周波数分析
国民保護サイレンの周波数分析

あまり見慣れないグラフだとは思いますが、縦軸が音の周波数を表していて、下が低い音、上が高い音です。横軸は時間を示しています。そのためグラフを見ると、緩やかに高い音になっていて、またその後下がってきているというのが分かると思います。また明るい線が大きい音で、暗い線になるにつれて音が小さくなっています。どちらも「ウ~ウ~」というサイレン音であり、音が連続的に上がったり下がったりしていることも感覚的に分かるのではないでしょうか。
 

また、一目見て分かる通り、消防車のサイレンが主に5、6本の線で構成されたシンプルなものであるのに対し、国民保護サイレンはより多くの線で構成されています。ただ、本数が少ないから快適な音で、多いから不快な音というわけではありません。線の間隔によって音の雰囲気が変わってくるのです。
 

気持ち悪い原因は「不協和音×不協和音」?

この後の解説では、アルファベットの「CDEFGAB」と数字が、「B3」「G5」といった表記で登場します。「CDEFGAB」は、そのまま「ドレミファソラシ」を指しており、数字が添えられることで音の高さが表されます。例えば、C4とC5はともに「ド」の音ですが、C5の方がC4より1オクターブ高い音になります。また、C4は「中央ド」とされています。

左:消防車のサイレン 右:国民保護サイレン

少し画面を拡大しつつ、音の鳴り始めに注目し、一番左側部分の数字を見ていきましょう。

消防車のサイレン音は「奇数倍音構成」

消防車の方は一番低い音の周波数が480Hz(B3=やや低いシ)程度、その上の周波数が1470Hz(F#5=やや高いファ#)、さらにその上の周波数が2414Hz(D#6=高いレ#)となっています。計算してみると、一番低い周波数480の3倍は1440で上の周波数とほぼ同じ、さらに480の5倍は2400でさらに上の周波数とほぼ同じになっています。つまり、周波数が3倍の3倍音、周波数が5倍の5倍音であり、弦楽器などと同じ「奇数倍音構成」(基本周波数の奇数倍の倍音の構成)と呼ばれる形式になっていると分かります。この構造は「和音」として考えても違和感のない音ではありますが、聴いていてもあまり和音という感じはしないですよね。ですが、シンプルな単音の上下だから、そこまで違和感がなく聴けるのです。
 

国民保護サイレンは基音も倍音も不協和音?

それに対して国民保護サイレンの方は、低い音は242Hz(C3=やや低いド)~352Hz(F3=やや低いファ)まで連続的に音が出ています。C#3、D3、D#3、E3、F3と多くの音が全部鳴っているのですから、低い音だけでもかなり気持ち悪い鳴り方をしています。
 

さらに、消防車のサイレン同様、この低い音は基本となるベースの音(基音)で、より高い音は倍音で構成されていると考えてみます。より高い音は2本ずつセットになっているように見えますので、この太い1本線は、2本の線がくっついてしまっていると見るのが自然です。そう考えてこの2本線の中心を読み取ると、273Hz(C#3=やや低いド#)と311Hz(D#3=やや低いレ#)という構成になっていて、ここは不協和音になっていると言えます。その上は823Hz(G#4=ソ#)と930Hz(A#4=ラ#)になっているので周波数が3倍の3倍音、さらにその上は1363Hz(F5=やや高いファ)と1557Hz(G5=やや高いソ)となっているので周波数が5倍の5倍音です。さらにそこから上も、7倍音、9倍音、11倍音……とずっと奇数倍音の構成になっています。しかもその倍音成分が非常に大きく、聴いていると2音以上あるようにも思えます。
 

つまり国民保護サイレンは、「ベースとなる基音が不協和音で、その倍音が全部不協和音構成なため、気味悪く感じる」のです。
 

これが拡声器などで流れ、反響音が鳴り響くと、時間差がある分、より多くの高さの音が交じり合ってしまい、ますます気持ち悪く感じられるということなんだと思います。
 

このように音を視覚的に分析してみるといろいろな現実が見えてきますね。実際にこのサイレン音を聴くことになるような場合には適切な行動ができるよう、日頃から準備をしておきたいところです。


藤本 健 プロフィール
音楽制作について網羅的に紹介するDTM系ライター。学生時代に複数のDTM製品をリリースし、大学卒業後はリクルートに入社。雑誌の編集業務に携わりつつ、コンピュータ系および音楽系の出版社でMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆。2004年3月にリクルートを退職し、同年4月にフラクタル・デザインを設立した。


>サイレン音を聴く


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