始球式を報じるメディアが好んで使う短縮語「ノーバン」に漂う作為性【山田Gのシン・日本語辞典】

ネット社会にあふれる「シン・日本語」をプロライター兼コラムニストの山田ゴメスが考察するシリーズ。【vol.11】は、スポーツ新聞系のメディアの見出しでお馴染みの短縮語について。

メッセンジャーアプリやSNSで見かける話題のネットスラングから、大人の常識には当てはめられない日本語の新たな用法、もはや「?」な若者言葉まで。ネット社会にあふれる「シン・日本語」をプロライター歴30年の山田ゴメスが考察する。
 

vol.11 始球式報道でメディアが好んで使用する「ノーバン」に漂う作為性

2015年に某スポーツ紙が報じた橋本環奈の始球式の1シーン。

橋本環奈
天使すぎるセーラー服姿で
見事なノーバン始球式!
「カ・イ・カ・ン」でした…

 

考察

タネを明かせば、


当時まだアイドルユニット『Rev.from DVL』のメンバーだった橋本環奈(現在は俳優)が、翌年に公開予定だった主演映画『セーラー服と機関銃-卒業-』の役にちなんだセーラー服で、福岡県のヤフオクドーム(現・PayPayドーム)にて始球式へと挑んだ。
 

その投球は見事なノーバウンド投球で3万7600人の観衆からは大歓声を浴び、その後に感想を聞かれた橋本環奈は「快感でした」とのコメントを寄せた。
 

……みたいな、一見たわいもないニュースなんだが、たった40文字程度の見出し文で、なんとなく意味深な感じの……インワイな響きすら含ませてしまうのが百戦錬磨のスポーツ新聞記者の剛腕っぷりである。


ネット住民のあいだでは、すでに苦情めいた討論もしばしなされているのだが、この「ノーバン」を「ノーパン」──つまり「パンツをはかないまま始球式で投球をした」と書き手側が読み手側に誤読させるよう、作為的なかたちで使用している……という噂は絶えない。
 

「ノーバン」と「ノーバウンド」を普通に脳内で直結できるのは、意外とコアな野球ファンだけで、あまり野球に精通していない層には、字面としてMAX級のインパクトを漂わせる「ノーパン」とインプリントされ、つい「ノーパンツ」をイメージしてしまいがちなのがポイントだと思う。


濁点と半濁点をすり替えただけで、こうもシチュエーションが異なってくるワードを筆者は他に考えつくことができない。「パリ」と「バリ」……くらいか?


しかも、「見事なノーバン始球式!」なる見出しは「ノーバウンド」であっても「ノーパンツ」であっても内容的には充分につながるわけであって、たとえば「野球に精通していない橋本環奈ファン」が、その「ノーバン」を「ノーパンツ」と妄想したくなる可能性もないとはいえない。野球ファンだけではなくアイドルファンをも“読者”として取り込もうとする、じつに狡猾なテクニックである。


スカート(もしくはホットパンツ?)を着用した著名人女性が始球式に登場し、投げたボールがノーバウンドでキャッチャーミットに納まったならもうしめたもので、そういう場合はほぼ100%の確率で「ノーバン」という単語がメディア上をおどりまくる。自己最高球速105km/hを誇る、「神スイング」としても有名なタレント・稲村亜美なんかは、すでに何回何十回「ノー◯ン投球」を果たしてきたことだろう?
 

さらに、今回取り上げた橋本環奈のケースにいたっては、その「ノーバン」に「セーラー服」「カ・イ・カ・ン(=快感)」が加わり、「ノーバン」を「ノーバウンド」といった“正解”へとたどり着くことを至極困難とするキャッチコビーに仕立て上げられている。


当たり前の話、始球式にノーパン(ツ)で挑む女性タレントなんてまずいないし、仮に実在したとしても、それをわざわざ取材に来た記者に報告する義務もない。
 

先にも申したとおり「ネット住民のあいだでは、すでに苦情めいた討論もなされている」うえ、ジェンダー表現についての意識改革が叫ばれる昨今、この「ノーバン」も減少の兆しはあるが、先ごろも「ノーバン投球」を含む見出し文をネットサーフィン(※←死語?)中に見つけてしまい、懲りずに不覚にもまたクリックしてしまった筆者なのであった。ノーパン(ツ)であるはずもないのに……ましてや万一ノーパン(ツ)だったからといって、なにがどうなるわけでもないのに……だ。
 

さて。「そんな勘違いするわけねーだろ!」と一笑に付すアナタ――もし、本コラムのここまでを読んで1ミリの違和感も抱かずスルーしてしまったのなら、笑っている場合じゃない。なぜなら、今回の原稿には1つだけ! あえてわざと「濁音と半濁音」を誤記している地雷箇所がある。わかりました?


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【正解】キャッチコビー(※正しくは「キャッチコピー」)

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