鉄道にこだわらない「フルムーン旅行」の隆盛
21世紀になり、世の中が大きく変わっても、夫婦2人での利用できっぷは1枚という制度設計は不変だった。旅の初めから終わりまで、鉄道利用に関しては絶えず同一行動を取らなければならない。
フルムーン旅行は盛んでも、鉄道にこだわる必要はないので、航空機やマイカー利用での旅が増えていく。国内に限定することもなく、気楽に海外へ飛び立てる時代になれば、行動範囲の広がりとともにフルムーンパスは忘れ去られていく。いつしか大した宣伝もしなくなり、フルムーンパスを使って鉄道旅行をしたと話すと、「まだフルムーンパスってあったのですか!」と驚く人も決して珍しくはなくなった。
国鉄時代から引き継いだ車両やきっぷなどが次第に世代交代を告げ、JR各社は自社のエリアを中心に運行体系やおトクなきっぷを見直すようになる。フリーパス的なきっぷに関しては、JR全線が乗り放題となるものは、このフルムーンパスと青春18きっぷだけになっていた。何も考えることなく毎年発売を続けてきたが、そろそろ潮時だったのかもしれない。
世の中の激変に翻弄されたフルムーンパス
結婚制度も不変のものではなく、事実婚や夫婦別姓も珍しいことではなくなった。結婚しない人も増え続け、女性の社会進出が進むにつれて、現役世代に関しては、夫婦そろって長期間旅をすることも難しくなっていく。
夏休みや年末年始、ゴールデンウィークの使用が不可であれば尚更利用機会は減っていく。2022年になり、同性パートナーから、このフルムーンパスを利用できないのかという問いかけがあり、それを政治家が問題視する事例も生じた。それがきっかけとは言えないかもしれないが、40年間不変だった制度が現在の社会に合わない部分があったのも残念ながら事実であろう。こうして、フルムーンパスは大幅な変更を加えることなく、誕生したときのやりかたを守りながら静かに消えていったのである。