世間的にはあまり知られていない、もう1つの特徴
ここまで紹介した3つの特徴は「なぜあの企業は安さを実現できたのか」というようなテーマになると、よく登場するものだが、実は世間的にはあまり知られていない特徴がもう1つある。
それは、「創業者の発言力が強い」というものだ。
ここまで世界的な原料高、輸送高、そして円安という「逆風」が続き、同業他社も値上げをしていれば、普通の経営者は価格への転嫁もやむなしという判断に流れがちだ。
しかし、あえてそれをやらないというのは、取締会や株主、そして社内の反対勢力を抑えるだけの強烈なリーダーシップがなくてはならない。「この人が値上げしないと言うんだったら、文句を言わずにそれをやるしかないだろ」とあらゆる人が納得する絶対的なリーダーである。
企業では、そういう人は1人しかいない。そう、創業者だ。
ご存じのように、サイゼリヤは冒頭にも登場した正垣泰彦会長がゼロから立ち上げた。2009年に正垣氏から社長を引き継いだ堀埜一成氏は2022年8月31日付で退任となったが、正垣氏は会長にとどまる。現在も大株主であり、外食産業の伝説ともなっている正垣会長が「値上げしない」と決めたら、社内では誰も逆らうことはできないのだ。
イオンも同様で、取締役代表執行役社長はたたき上げの吉田昭夫氏ではあるが、その裏には代表執行役会長として、創業家の岡田元也氏が控えている。取締役の会議長、指名委員、報酬委員も務める岡田ファミリーが「価格凍結」と言えば、それは巨大グループがあらゆる方法を模索して実現をしなくてはいけない。
シャトレーゼもしかりで、シャトレーゼHD、シャトレーゼも共に代表取締役会長として、創業者の齊藤寛氏がいる。ここがシャトレーゼのビジネスの方向性を全て決めているというのは、2021年12月12日に『ガっちりマンデー』(TBS系)に出演した際の以下の紹介文からも伺えるだろう。
《番組史上最高齢!?まだまだ現役の87歳会長のパワフルさが半端ない!》
もしサラリーマン社長なら、時代に逆らって「値上げしない」という戦い方を選んだら権力争いをするライバルなどからたたかれるだろう。しかし、大株主でもある創業者や創業家が「値上げしない」と宣言をすれば、社内は一致団結してどうすれば値上げしないで済むかと知恵を絞る。
「値上げしない企業」と聞くと、消費者は「素晴らしい会社だ」とすぐに称賛をするが、実は「逆らうことができず、誰も値上げしようと言い出せない」という側面もあるのだ。
窪田順生プロフィール
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。
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