「偶然」の出会いを演出するロシア人
実は、この2件のようなスパイ事案は多発している。日本人はそろそろ気付くべきだが、ロシアスパイは通商代表部に所属していることが多く、別の国の出身だと装っているケースも少なくない。また、展示会で出会ったり、街中で偶然を装って接近したりする場合もよくある。
2020年にはソフトバンクの元社員が会社の機密情報を、ロシアの通商代表部に所属するロシア人に提供したとして逮捕されている。このケースでも、もともと繁華街で、この元社員が飲んでいるときに、ロシア人から「いい店を知らないか」と声を掛けられて知り合い、そこから仲良くなった。もちろん、これは「偶然」知り合ったわけではない。ロシア側は、きちんとターゲットを決めて、狙いを付けて「偶然」出会うよう演出する。
このケースでは、元社員は自宅からソフトバンクのサーバにアクセスして情報提供をしていた。
とはいえ、企業側はなすすべがないわけではない。ここで示したような実態を知っているだけで、スパイにだまされないような対策はできるはずだ。
国の機密情報もターゲットに
企業以外でも、政府や防衛関係の機密情報が狙われるケースもある。有名なのは、2000年にもエリート自衛官が、ロシア通商代表部のスパイに海上自衛隊の秘密文書などを提供して逮捕された事件だ。この自衛官は、日本とロシアの防衛関係者が交流する日露防衛交流で通商代表部の職員(実態はロシアの諜報機関のスパイ)と知り合いになり、一緒に食事に行くなどして情報提供をするようになった。見返りとして現金を受け取っていた。
やられっぱなし、という意味で言えば、実はロシアのウクライナ侵攻に絡んで、日本政府はロシア外交官とロシア通商代表部職員の8人を国外に追放処分にしている。ある公安関係者は、「彼らはスパイだった」と述べているが、そんな処分が起きている間でも、ロシアスパイは日本で冒頭のようなスパイ工作を続けているのである。
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