60年前「さつま揚げのオバケ」と言われたハンバーグは今どうなった? 「マルシンハンバーグ」の歴史を振り返る

日本の一般家庭でまだ「洋食」の理解が乏しかった約60年前、食卓を変えたきっかけの1つが「マルシンハンバーグ」の登場でした。2022年に60周年を迎えた同社の歴史を振り返っていきます。

マルシンフーズの「マルシンハンバーグ」

今でこそスーパーやコンビニではたくさんの簡便食材が発売されていますが、今から60年前の1962年(昭和37年)、日本ではそうした商品はごく限られており、一般家庭では「洋食」の理解もまだ乏しかったそうです。
 

そんな中、一般家庭の食卓を大きく変えるきっかけになったのが「マルシンハンバーグ」。昭和世代の中には「マルシン、マルシン、ハンバーグ♪」のテレビCMなどが耳に残っている人も多いことと思いますが、同製品の登場は、同時に「ハンバーグ」というメニューを一般に浸透させました。
 

今回は、誕生から2022年で60周年を迎える「マルシンハンバーグ」の歴史を改めて振り返っていきます。
 

「ハンバーグ」がまだ一般家庭で知られていなかった時代に登場した、日本初の調理加工ハンバーグだった!

「マルシンハンバーグ」を販売するマルシンフーズは、1960年に創業。その後、丸大食品グループの一員となりました。総合食品メーカーとして立ち上げた一方、創業当初はマグロのすり身、イカのもろみ漬け、煮こごりなどの水産加工品を中心に製造を行っていました。
 

そのような状況で、外食産業の分野では「食の欧米化」が進み始め、街のレストランではスパゲティ、カレー、シチューといったメニューが並び始めました。まだ一般家庭でこういったメニューが浸透し始めるのはさらに先のことですが、マルシンフーズの創業社長が当時では珍しかったハンバーグをレストランで口にします。創業社長はかなりの感銘を受け、「これを家庭で食べられるようにすれば大ヒットするはずだ」と確信し、日本初の調理加工されたハンバーグの製造に乗り出します。
 

発売に至るまでの間、原材料、鮮度、コスト面など課題に度々ぶつかったそうですが、技術開発者とともに研究に取り組み、鮮度を維持しながら調理の手間を減らした「油脂コーティング技術(後述)」を独自開発。この技術を生かし、日本初の調理加工されたハンバーグを完成させ、「マルシンハンバーグ」として1962年(昭和37年)の発売に至りました。発売当時の価格は14円。それまで、水産加工品を中心に製造していた当時のマルシンフーズにとって、社の命運をかけた一大商品でした。
 

「それ何? さつま揚げのオバケかい?」とまで言われる始末……

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油を引かずに焼くことができる「マルシンハンバーグ」。左が「和風ハンバーグ しそ入り」、右が「マルシンハンバーグ」。フライパンはもちろん電子レンジでの温めもOK!


ただし前述の通り、まだ一般家庭では「ハンバーグ」というメニューがどのようなものなのか知らない人の方が多く、その点では非常に苦労したそうです。
 

築地をはじめとする市場を経由させ、「マルシンハンバーグ」は全国流通をスタートしていた一方、同社の営業マンは市場で働く人々から「それ何? さつま揚げのオバケかい?」と言われることとも……。
 

この状況を打破するため、営業マンたちは全国の市場や販売店に出向き、店先で「マルシンハンバーグ」を実際に焼いて、顧客に食べてもらうという実演販売を行ったそうです。「これがハンバーグですよ。どうです、おいしいでしょう?」と、粘り強く消費者に訴求することで、徐々に全国へと広まっていったとのことです。
 

その後、日本の高度経済成長が軌道に乗り始めると、日本人の食生活が欧米化にシフト。また食の簡素化が進み、冷凍食品やインスタント食品が普及。手間をかけずに調理できる食品、今で言う簡便食材が主婦の間で浸透し始めます。この追い風もあり、「手軽でおいしく、しかも安い」という「マルシンハンバーグ」は大ヒットにつながったそうです。
 

当初の魚肉メインの原材料から1981年に、畜肉メインに変更

発売当初の「マルシンハンバーグ」の原材料は魚肉をメインにしたものでした。1960年代は、牛肉などの畜肉の流通量が少なく、さらに高価格でもあったため、代替原料として鯨の肉やマグロ、そして豚肉を使用していたそうです。
 

1980年代に入ると、商業捕鯨の規制が厳しくなり入手困難になったこと、またマグロの価格が高騰するなどもあり、1981年(昭和56年)頃に原材料を畜肉のみに変更し、時代ごとに度重なる味のアレンジを加えながら現在に至るそうです。
 

また前述の「油脂コーティング技術」は、ハンバーグの全体をラードで被覆させるもので、これにより油を引かずにフライパンで焼け、さらにハンバーグと空気を遮断することで鮮度を保たせられる技術です。後に、電子レンジでの調理も可能とさせるなど、味と同様に扱いやすさにもこだわった商品です。
 

マルシンフーズのキャラクター「みみちゃん」の秘密

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マルシンフーズのキャラクター・みみちゃん


「マルシンハンバーグ」のパッケージには、女の子・みみちゃんが描かれており、親しみやすい印象もあります。
 

このキャラクターの名の由来は「美味」。また、前述の通り、発売当初の「マルシンハンバーグ」は原材料に魚と豚肉を使用していため、みみちゃんの髪の毛のカールは「魚」を、リボンの曲線は「豚のしっぽ」を表しているそうです。ちなみにみみちゃんの出身地は「東京都」だそうです。
 

このみみちゃんは、「発売60周年キャンペーン」のプレゼント商品などにも用いられ、「マルシンハンバーグ」の象徴として広く知られる人気キャラクターです。

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「マルシンハンバーグ」60周年を記念したキャンペーン実施中です。詳しくは公式サイトをご確認ください
 

担当者からは、60年前のマインド同様の「未来発展型」の思いが

現在マルシンフーズがリリースするハンバーグ商品は、「マルシンハンバーグ」を含む8商品をラインナップ。60年前の誕生時の思いが、今なお継承され続けていることを示す商品群と言って良いでしょう。
 

最後に、マルシンフーズの担当者の方に、同社の未来への思いについても聞きました。
 

マルシンフーズ担当者:皆さまに長きにわたってご愛顧いただき、無事60周年を迎えることができました。大変うれしく思っております。今後は80周年、100周年と長く愛されるブランドになるために最も必要な要素は購買層の拡大と、その時代のニーズに合った商品に変化してくことだと考えています。

 SNSを活用し販促情報、メニュー提案、喫食シーンを積極的に提供することで、若年層との接点を増やし、次世代へのアプローチと変化への対応が最も重要なファクターだと考えています。また、高齢化のみならず、今後も健康志向のマインドはますます高まることとも思われます。新たな機能を乗せる、余計なモノは引くなど、常に未来発展型の思考を持って長く愛される商品づくりに万進していきたいと思います。今後とも「マルシンハンバーグ」をご愛顧いただければ幸いです。
 

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「マルシンハンバーグ」60周年記念パック。同社の未来にも期待大です!

足早に振り返った「マルシンハンバーグ」の60周年でしたが、その歴史は、日本の一般家庭の食卓の変遷ともリンクするように思いました。一般家庭の食卓で「ハンバーグ」というメニューを切り開いた味、そして長きにわたって愛され続けた味でもあります。この歴史が詰まった味、この機会に召し上がってみてはいかがでしょうか。


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【関連リンク】
マルシンハンバーグ
マルシンハンバーグ 60周年キャンペーンについて


 
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