最終的に校長になるのが教員の王道的「出世コース」なのか?
教員が目指す出世コースとはやはり、校長になることなのでしょうか。20年以上、公立小学校で教員を務めた経験のあるA先生にお話を聞いてみました。「多くの場合は、学年主任、そして副校長・教頭といった管理職を経て、校長を目指すことになります。自治体の教育委員会も、学校管理職の仕事のひとつですね。学校管理職と教育委員会を行き来するケースも多いです。なかには、中間管理職になること嫌い、現場主義を貫きたいという意思を持った教員もいますね。管理職になると、事務職的な仕事が一気に増えます。教壇に立つことが好きで教員になった人にはつらいかもしれません」(A先生)
副校長・教頭になると、事務仕事が増えることに加え、時間外の対応が多くなる大変さもあるのだとか。
「ひと昔前は夜遅くでも職員室に電話がかかってしまう状況で、学級担任のプライベートの電話番号を連絡網に載せているケースもありました。特に中学校では、夜間に緊急で自宅に電話がかかってくるため夜にお酒が飲めないという校長もいたそうです。最近では一定時刻以降は留守番電話で対応している学校も増え、時間外の電話窓口を教育委員会に設置している自治体もあります。それでも子どものトラブルなど、緊急対応をせざるを得ない場合もあるようで、知人の元校長の話では、いまだに24時間電話がかかってくる管理職も多いそうです」(A先生)
先生はどうやって出世していく?年功序列?昇給の仕組みは?
「細かいルールは自治体によって違いがありますが、年齢と教員の経験年数によって、管理職選考の基準が定められています。管理職になるための選考試験を実施している自治体が多いですね。選考基準を満たしていても、校長からの推薦がないと応募できないという自治体もあります」ちなみに、東京都の例をみてみると、教員経験が通算8年以上で主任教諭の選考試験を受けることができます。採用された年齢によりますが、最速では41歳、副校長等の経験年数3年以上で校長選考を受けることができる仕組みになっているようです。
「団塊の世代の多くが退職した昨今、校長職に就ける人材が少なく、倍率も低めです。“再任用”という形で、定年退職後も校長職にとどまる例も多くあるようです。逆に今の20~40代くらいまでは教員の採用数が多いので、将来的に校長のポスト争いは激しくなる可能性があるでしょう」(A先生)
A先生によると、選考試験はそれほど難しくないようですが、調べてみると「管理職選考合格対策」専用の問題集なども販売されています。学校管理職にどのようなことが求められているのか、参考になるかもしれませんね。
では、給与については、どのような仕組みになっているのでしょうか。
「公立学校教員の給与は、教諭、副校長・教頭、校長、と職位が上がることにベースが上がっていきます。かつては、役職に関係なく1年間で1ランク上がるという時代もあり、これが“公務員はなにもしなくても給与が上がる”というイメージを世間に植え付けた元凶です。最近は、給与ランクに勤務状況を反映するシステムに変わり、ランク分けを細分化している自治体が多いですね。教員の勤務状況を校長が評価し、給与に反映しています」(A先生)
校長に権力が集まりすぎる!?「評価者」の育成が課題
現場での頑張りが評価されれば給与に反映されるシステムは、一見したところ、頑張った人が昇進・昇給できる最適な仕組みに思えます。一方で、懸念点もあるようで……「評価者である校長に権力が集まりすぎる側面はあるかもしれません。校長に評価されないと昇進・昇給ができないので、校長の雑用をすすんで引き受けたり、コロナ禍以前は校長主催の飲み会に積極的に参加したり……といったことで点数を稼ぐ教員の話も耳にしました。残念ではありますが、校長に可愛がられた方が得だと考える教員が出てくるのも仕方がないことかもしれません。校長の方針に合わせるため、教育に関する自分なりの理念を持ち続けることができなかった教員の話も聞いたことがあります」(A先生)
どんな評価システムであっても、評価者が適切に評価できないと成り立たないというA先生。教育業界には管理職育成システムが必要だと語ってくれました。
「民間企業は、少しずつステップを重ねて管理スキルを学びやすい環境であるように思います。管理的業務に携わる前に必要な研修を受けられる企業もありますよね。一方で教員は試験さえクリアすれば、学級担任から急に管理的な立場に立つことになります。管理職としてのトレーニングが十分できていないことが多いので、他人を評価する立場になっても、ひとりよがりの評価になったり、一部のひとを優遇してしまったり……という可能性が出てきてしまうんです。学校のシステムの中に、中間管理職を育成していくシステムが必要だと感じますね。それが結果的に、子どもたちにとっても幸せな教育の場となるはずですから」(A先生)
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