激増するSNSトラブル、保護者からの緊急電話…「時間外」対応に疲弊する教育現場の実態

【現役中学校教員に緊急取材】第1回は、教員の労働時間や働き方についての問題をお伝えしました。2回目の今回は、子どもや保護者に関するトラブルの実態に注目。さまざまなトラブルに直面する教員の日常が明らかになりました。

現役中学校教員に緊急取材するシリーズ第1回は、教員の労働時間や働き方についての問題をお伝えしました。2回目の今回は、子どもや保護者に関するトラブルの実態に注目。さまざまなトラブルに直面する教員の日常が明らかになりました。
 

電話対応は24時間!? 業務時間外のトラブル対応も多発

子どもに勉強を教えるだけでなく、昼間の生活を共にする教員の仕事内容は多岐にわたります。そのひとつが子どもや保護者に関わるトラブルの対処。教育現場で実際にどんなトラブルが起きているのか、某地方都市の公立中学に現役の教員として勤務している30代の女性(以下、Aさん)話を聞きました。

「最近はSNS関連のトラブルが多い印象です。たとえば本来クローズドであるべき話題(主に悪口)を軽い気持ちでSNSに投稿してしまうようなケース。たとえば女子同士がDMでやり取りした先輩への文句をスクショして当事者に送りつけたり、SNSのライブ機能で個人名をさらして悪口をぶちまけたりするトラブルが激増しています。当然ながら、いじめや喧嘩、ときには暴力沙汰にまで発展する危険性もあり、慌てた様子の保護者から電話を受けることがあります。それが夜遅い時間帯でも、保護者からの電話は緊急事態であることも多く無視できません……」(Aさん)

たとえ業務時間外であっても、生徒に関わる緊急事態や、いじめや暴力などのトラブルに発展しそうなときは対応せざるを得ないとのこと。なかには、既定の時間外は電話を自粛するよう保護者に求めたり、留守番電話対応にしたりなどの対応をしている自治体もあるそう。時間に関係なく、学校や教員に電話連絡ができてしまう状況であることも、教員の負担を大きくしているといえそうです。

大きなトラブルに発展することがなくても、日々保護者から届く細かい要望に応え続けて疲弊してしまう、とも。

「公共交通機関に子どもひとりで乗せるのは不安という理由で『部活動の遠征には参加させない』という保護者。生徒が体調不良で迎えが必要な状況にも関わらず、仕事が終わらないので夜まで学校で預かってほしいと言う保護者……。詳細はお話しできませんが、これ以上に驚くような要望も正直あります」(Aさん)

冷静に考えると「家庭内で解決する問題では?」と思うようなことでも、教員の見守りや声掛けが必要なケースも。さまざまな事情の子どもが通っている公立学校ならではともいえそうです。

「たとえばいつも汚れた制服を着ていておそらく洗濯をしてもらえていないと思われる子、忘れ物が極端に多かったり、学校指定品の購入をしてもらえない子。給食費の未払いが続く家庭もありますし、ダイエットを理由に給食を頑なに食べない子がいたり。必要があれば家庭に連絡をしますが、そういう家庭に限ってなかなか連絡が取れないケースが多いものです」(Aさん)

減少が続く公立学校教員の競争率と受験者数

「抱えている仕事量に対して、圧倒的に教員数が不足していると感じる」とAさん。民間企業の規制レベルをはるかに超える残業時間が常態化している上に、労働時間に見合う報酬が得られない現状が苦しいといいます。

かつては安定的な収入が得られる公務員、かつ社会的地位が高いイメージも強かった教員ですが、最近では職業としての人気は低下中です。

文部科学省では、67都道府県・指定都市教育委員会及び大阪府豊能地区教職員人事協議会(計68)が実施した公立学校教員採用選考試験を対象として、受験者数、採用者数等採用選考の実施状況について、毎年度、調査を行っています。調査結果によると、2020年度(令和2年度)公立学校教員採用選考試験では、小学校教員の競争率(採用倍率)が過去最低の2.7倍、中学校の競争率(採用倍率)は前年度の5.7倍から5.0倍に減少しています。
 
教員を志す若者が減っているのは深刻な状況。やはり労働環境の改善が急務だといえそうです。
 

メンタルが強く、熱意がないと続けられない職業!?

多様な家庭環境にいる子どもたち一人ひとりと真剣に向き合おうとすればするほど仕事が増えてしまうとAさんは続けます。

「私は熱望して教員になりましたし、今の仕事にやりがいも感じています。学生の頃からスポーツを続けていることもあってかメンタルにも体力にも自信がありますが、それでも心身ともにつらくなることがあります。辞めてしまう教員も多いですね。何人もの教員が休職したり、退職したりするような年度もあります」(Aさん)

文部科学省が2021年12月21日に公表した、2020年度(令和2年度)公立学校教職員の人事行政状況調査の結果によると、精神疾患による病気休職者数は5180人(公立の小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校における全教育職員数の0.56%)。過去最多となった前年度の5478人から298人減少しています。
 
文科省はこの結果を受け、「原因として考えられる業務量の増加や複雑化、職場の人間関係に加え、令和2年度以降には、新型コロナウイルス感染症対応の職務により、精神的な緊張や心身の過度な負担につながることも懸念される」として、「改正給特法に基づく指針を踏まえて適正な勤務時間管理を徹底するほか、学校における働き方改革の様々な取組を総合的に推進」するなどの対応を行うとしています。

多忙な業務に加えコロナ禍におけるオンライン授業などの対応、さらにはスマホ世代の中学生との関わりにも難しさを感じているというAさん。

「コロナ禍で、子どもたちは少なからず影響を受けていると思います。行動制限された学校や世の中、スマホに頼りがちなコミュニケーション。スマホを持つようになってから、時間の使い方が下手になっている子が多い印象です。夜遅くまでスマホを手放せずに朝起きられず、メールなどで気軽に部活動の欠席連絡をしてくる子も。いじめやトラブルに教員が気づきにくくなっていることへの懸念もありますね」(Aさん)

働き方改革どころか、ますます多忙になるばかりの教員の労働状況。教員が心身ともに健康な状態を保てないことで影響を受けるのは子どもたちです。

文科省も、学校における働き方改革の目的を

教師が我が国の学校教育の蓄積と向かい合って自らの授業を磨くとともに日々の生活の質や教職人生を豊かにすることで、自らの人間性や創造性を高め、子供たちに対して効果的な教育活動を行うことができるようになること

としています。「子どもたちのため」にも働き方改革を早急に進める必要がありそうです。


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