さよならエヴァンゲリオン。かつて「シンジ君」だった僕たちの25年目の卒業

現在公開中の映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が、初日から3週間で興行収入60億円という大ヒットに。最初のTV放送から25年も経って公開された映画が、なぜここまで多くの人を惹きつけるのか。エヴァを追いかけてきたファンの1人として振り返る。

ラストシーンから受け取った「庵野監督のメッセージ」

手を取り合って階段を駆け上がり、駅の外へと出ていくシンジとマリ。ラストシーンは、ドローンで撮影されたであろう実写の世界の中を、アニメの二人が走るという表現方法が取られていました。

そして成長したシンジの声を担当したのは、俳優の神木隆之介さん。エンドロールで名前を見たときは驚かされました。25年間シンジの声を担当してきた緒方恵美さんではなく、神木さんを起用した。今までのエヴァとはちがう、新しい世界なんだと感じられる演出でした。

神木さんはジブリや新海誠作品など、多くの大作で出演経験のあるベテラン声優であるだけでなく、子役時代の透明感ある面影を残したまま大人になった、稀有な魅力を持つ実写の世界の俳優でもあります。アニメから実写へとなっていく表現において、彼ほどふさわしい俳優もいないでしょう。

実写の世界の中を、アニメであるシンジとマリが走る。これは旧劇場版の「気持ち悪いんだよオタクが。アニメなんて観てないで現実を見ろ」とはちがう「アニメは現実と地続きの世界。アニメに希望を得て現実へ向かえばいい」というメッセージに思えました。

そして流れる、宇多田ヒカルさんの主題歌『One Last Kiss』。最初の歌詞は "はじめてのルーブルはなんてことなかったわ 私だけのモナリザとっくに出会ってたから"。

ルーブル美術館にあるモナリザは、現実でもあり、虚構でもあるといえます。とっくに出会っていた私だけのモナリザも、現実の人物かもしれないし、虚構の作品かもしれない。

作詞は宇多田さんによるものですが、庵野監督のメッセージに重なる部分が感じられて感動しました。

主題歌『One Last Kiss』(公式ホームページより)

もちろんすべては勝手に読み取ったもので、庵野監督はそんなつもりはないかもしれません。それでもファンとして、25年という長い間エヴァンゲリオンという作品を追いかけてきて良かったな。エヴァを好きでいて良かったなと思える。本当に素晴らしいラストシーンでした。
 

かつて「シンジ君」だった僕たちの25年目の卒業

『プロフェッショナル 仕事の流儀』で、シンジの声を担当してきた緒方さんに「最後、ここからちがう物語が始まらないんですか?」と聞かれた庵野監督は「物語は始まらない。さみしいけど卒業。卒業は必ず来る。僕のエヴァはこれで終わり」と答えていました。

シン・エヴァは、かつて「シンジ君」だった我々ファンの卒業式といえるものだったのかもしれません。素晴らしい完結編だったので、観れてとても嬉しいけど、その反面もう続きはないんだ、くり返されることはないんだと思うと、本当にさみしい。

卒業ってこんなに切ないものだったんですね……。大人になって、すっかり忘れていました。

でもきっと、これからも私たちはエヴァのことを考えたり、話したり、何度も見返したりするんだと思います。それは必ずしも「エヴァの呪縛」と呼ばれるような後ろ向きなことではないはず。

卒業したって卒業アルバムを見返したり、昔を懐かしんだっていいじゃないですか。

さみしいから続編や外伝を作れ、とは思いません。でも万が一、庵野さんが心変わりしたり、別の監督に引き継がれたりして新しいエヴァがもし作られたら、たぶん観に行くんだと思います。「ぜんぜん変わってないなぁ!」なんていって。同窓会みたいなもんです。

“私があなたと知り合えたことを 私があなたを愛してたことを 死ぬまで誇りにしたいから”

シン・エヴァのクライマックスで流れたあの曲は、かつて「シンジ君」だった、エヴァを愛する私たちの「卒業ソング」なのかもしれません。

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