「イスカリオテのマリア」と呼ばれるマリの正体
シンジがゲンドウと戦っている間に、マリは敵の戦艦へと侵入し、冬月副司令のもとへ。その目的はMark.09-Aに続いてMark.10〜12も捕食して、8号機を「オーバーラッピング」させること。
「オーバーラッピング」とは、ウルトラマンシリーズに出てきた概念。ウルトラ兄弟が合体して強くなることを指していました。
マリはマイナス宇宙へシンジを迎えに行くために「アダムスの器」計4体を捕食し、8号機を「プラス・フォー・イン・ワン」に。そこまでしないと最深部まで行けないということでしょうか。
冬月先生もマリが来るのを察していたように、Mark.10〜12を一箇所に集めていました。ゲンドウを送り出す儀式に必要だったので、後はもう好きに使ってくれと明け渡します。
マリはもともとゲンドウやユイと同じく冬月先生の教え子でした。恐るべき冬月研究室! もはやすべての元凶は冬月先生なんじゃないでしょうか……。
冬月先生に「イスカリオテのマリア」と呼ばれ、久しぶりにその名前を聞いたというマリ。これはキリストを裏切ったとされる「イスカリオテのユダ」と、キリストの復活を見届けたとされる「マグダラのマリア」を合わせた造語だと考えられます。
色々な解釈ができる冬月先生らしいネーミングですが、ひとつには、冬月やゲンドウに敵対している点では「ユダ」だが、ユイやシンジのために行動している点では「マリア」である、というような意味に取れるでしょう。
それにしても、冬月先生は素直に人の名前を呼べないんでしょうか?「Q」でシンジ本人に向かって「第3の少年、将棋は打てるか?」と言い放ったときは笑いました。名前で呼んであげてよ……。
あるいは久しぶりに聞いたと言っていたので、もしかしたらマリは、冬月先生と会う前からそう呼ばれていたのかもしれません。
そもそも、マリが冬月研究室時代から歳を取らないのは、シンジと同じく「エヴァの呪縛」だと思っていましたが、よく考えると「破」でエヴァに初めて乗ったようなことを言っていました。
そうなるとマリもカヲル君のような、人を超越した存在なのかもしれません。ユダもマリアも「十二使徒に数えられていない使徒」という意味もある。ただこの辺はもう考察のしようがないとも言えます。
マリがシンジを迎えに来てくれた。それだけで十分ですよね……!
マリエンドにみるシンジと庵野監督が求め続けた「相補性の世界」
マリが迎えに来てくれたことで、実体を取り戻したシンジ。気がつくと、青年に成長した姿で駅のホームに座っていました。向かいのホームには、救済したチルドレンたちの姿も見えます。
この駅は庵野監督の地元である「宇部新川駅」がモチーフになっており、シン・エヴァ公開前のポスターでも使われています。
このポスターの線路は、エヴァがくり返しの物語であることを示すように、奥から手前にかけて線路は2回分岐しています。一つ目の分岐がTV版のラスト、二つ目の分岐が旧劇場版のラスト、そして手前までくるとタイトル、つまり今回のシン・エヴァに至ると読むこともできます。
駅のホームに座るシンジの元に現れたのは、マリでした。恋人のような会話を交わして、シンジのDSSチョーカーを外すマリ。
エヴァの呪縛からの開放を暗示しているようですが、マリはシンジのことをずっと「ネルフのワンコくん」と呼んでいたので、あるいはシンジが「親離れ」したことを表現しているのかも。
マリの差し出した手を握り「行こう!」と答えるシンジ。線路に沿った電車に乗るのではなく、二人で駅の階段を駆け上がり、外へと走り出していく。
線路のようにループする今までのエヴァの世界に別れを告げて、エヴァのない新しい外の世界へと出ていくんだと感じられて、胸が熱くなりました。
手を繋いだまま走るというのが、相補性のある世界をずっと望んできたシンジらしくて素敵でしたね。
「破」で登場して以来、マリはずっとシンジに手を差し伸べてきました。第10の使徒から逃げ遅れたシンジをシェルターから救い出すとき。「Q」で活動停止した第13号機からシンジを緊急射出させるとき。
そんなマリの手を、ついにシン・エヴァのラストで成長したシンジが握り返したと見ることもできます。
「破」で初めて会ったとき、学校の屋上にいるシンジにパラシュートで突っ込んできたマリ。その衝撃で、25曲めと26曲目をずっとリピートしていたシンジの「S-DAT」が27曲めになります。
TV版の最終回は、25話と26話でした。旧劇場版が作り替えたのもその2話。それが27曲めに入ったのは「破」からはちがう結末へと向かうということを暗示していました。マリというキャラクターは、それまでのエヴァを破壊する変化の象徴といえます。
しかし「破」のインタビューによると、庵野監督はこれまで作り上げてきたエヴァの世界を自分では破壊しきれないとして、自分の信頼するスタッフである鶴巻さんと貞本さんに、マリのデザインやキャラクター造形、声を担当した坂本真綾さんのキャスティングやディレクションまでほとんどの部分を任せたそうです。
「自分の中での他者、エヴァの世界も異物にしたかった」と語る庵野監督。自分の中にはないもの、他者の象徴がマリというキャラクターであることがわかります。
シン・エヴァ公開後に放送された『プロフェッショナル 仕事の流儀』で、庵野監督の制作風景が映されていました。こだわりが人一倍強い反面、自分の想像通りでは面白くないと絵コンテを切らずに膨大なアングルを撮影させたり、案を出させる庵野監督。
「アイハブノーアイデア」とまで言い切っていたのは面白かったですね。シンジが最後まで相補性のある世界を望んだのは、そんな庵野監督の投影なのかもしれません。
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