新型コロナの影響で世帯年収が120万円も減収。家を購入して大丈夫?

自宅購入を検討していたが、コロナ禍の影響で夫のボーナスがカット、月収も2割減となったご家族。このまま自宅購入を進めていいのか、先延ばしにしていいのかというお悩みに、詳細なシミュレーションを基にFPが解説します。

2020年2月からの新型コロナ感染症拡大の影響を受けて、休業や失業、減収に見舞われた方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。コロナ禍以前の収入であれば問題ないと思われた自宅購入も、減収によって見直しが必要となる可能性もあります。


今回は、コロナ禍によって減収となったご家庭の、自宅購入計画見直しについて、シミュレーションしてみたいと思います。
 

■モデルケース

  • 夫:会社員(38歳)、年収600万円(コロナ禍による業績悪化によって480万円に減収)、退職金1500万円。65歳まで再雇用(年収276万円)
  • 妻:パート(36歳)、年収130万円、60歳退職予定、退職金なし
  • 子ども2人(6歳・4歳)
  • 貯蓄:預貯金700万円、投資信託150万円
  • 住居費(年間)144万円
  • 年間生活費237万円


■今後の予定・希望

  • コロナ禍の影響で夫の年収が600万円から480万円に減収予定。いつ元の年収にもどるかは未確定
  • 妻は現在のパートを60歳まで続ける予定だが、夫の減収により家計が厳しくなるのであればフルタイム勤務に変更も検討
  • 第2子が5歳から15歳までの間、毎年海外旅行をしたい(予算:年間50万円)
  • 子どもは2人とも中学まで公立、高校から私立。大学は長女が私立文系、長男は私立理系の予定
  • 現在は賃貸だが、第1子の小学校入学に合わせ築10年の中古マンションを購入予定。
    物件価格:3000万円。住宅ローンは2600万円を予定(頭金400万円、諸経費100万円を預貯金より支出)
    金利は変動金利、35年ローンを予定
  • 加入中の保険
    夫:生命保険(終身、60歳払い込み、500万円)=月額1万5000円
    妻:入院保障共済=月額2000円
    子ども:学資保険(15歳払い込み、満期200万円)=月額1万円×2人分

 

減収しなかった場合のライフプランとの差異を把握する

今回のモデルケースの場合、収入減少によるライフプラン見直しとなるため、まずは収入が減少しなかった場合のライフプランと、減収した場合のライフプランとを比較する必要があります。
 

▼減収しなかった場合のシミュレーション

減収前の世帯年収(730万円)であれば、図のシミュレーション結果のとおり、3000万円の物件を購入したとしても比較的余裕を持った老後生活が送れる予定でした。

夫の年収が600万円のままの場合
(図1)夫の年収が600万円のままであった場合 ※「milize Pro」を使用してのシミュレーション結果


▼減収した場合のシミュレーション

それでは、夫の年収が480万円に下がった今、同じく3000万円の物件を購入するとその後の資金にどのような影響があるのでしょうか。


夫の年収が480万円となった場合のシミュレーション結果が図2のグラフとなります。年収以外の条件は同じですが、65歳時点で金融資産がすでにマイナスに転じてしまいます。

夫の年収が480万円となった場合
(図2)夫の年収が480万円となった場合 ※「milize Pro」を使用してのシミュレーション結果

2つのシミュレーションには、子どもの教育費やマンションリフォーム費用、希望である年間50万円の旅行費10年分は盛り込み済みですが、介護費用やいざという時の医療費などは盛り込んでいません。


つまり、病気やケガによる入院やどちらかの介護が始まった場合、家計の破綻はさらに早まる可能性があるということです。


それでは、自宅を購入しても老後破綻をしないようにするには、どうしたらよいのでしょうか。
 

対処法1:自宅購入時期を遅らせる

まず考えられる対処方法として、自宅購入の時期を遅らせることが挙げられます。


一般的に、購入時期を後ろ倒しにすることで頭金に回す資金を増やすことができ、住宅ローンの支払い額を減らすことが可能になります。また、物件購入までの間にコロナ禍が収まり、世間の景気が上向いている可能性もあります。


しかし、今回のモデルケースで仮に5年後に物件購入を行った場合、1年後に購入するよりも収支は上向くものの、65歳時点での金融資産額がマイナスであることは変わりませんでした。

物件購入を5年遅らせた場合
(図3)物件購入を5年遅らせた場合 ※「milize Pro」を使用してのシミュレーション結果

なぜ、物件購入を5年遅らせたにもかかわらず、金融資産がマイナスとなってしまったのでしょうか?


その原因として、以下2つの理由が挙げられます。

  • 減収前は約20%だった世帯年収に占める家賃の割合が、減収によって約24%に引き上げられたことから、家計の負担が増し、預貯金が思ったより増えなかった
  • 預貯金が予想よりも増えなかったため、頭金を増やす余裕がなくなった


このように、家計の中で住居費が占める割合が高くなった状態の場合、住宅購入の時期を後ろ倒しにしたとしても、その効果は限定的になります。
 

対処法2:世帯収入を増やす

次に考えらえる対処方法は、世帯収入そのものを増やすことではないでしょうか。


世帯収入そのものが増えることで、住居費が家計に締める割合が下がるため、貯蓄に回せる金額が多くなります。世帯収入が増える期間が長ければ長いほど、収支は改善される可能性があります。


それでは、妻のパート勤務を第2子が小学校に入学する5年後にフルタイム勤務に変え、年収が300万円となった場合、どのように収支が変わるのかシミュレーションをしてみましょう。

5年後の妻の年収が300万円に増えた場合
(図4)5年後の妻の年収が300万円に増えた場合 ※「milize Pro」を使用してのシミュレーション結果

シミュレーションの結果、妻の年収が300万円に増えると100歳まで資産がマイナスにならないことが分かります。


妻の年収増は、現役時代の収支改善や60歳までに貯められる老後資金が増えるだけでなく、妻自身の年金額を増やす効果もあるため比較的余裕のある生活が送れる可能性が高くなります。


当然、妻の年収が増える時期が早ければ早いほど、その余裕は大きくなります。
 

まとめ

予期せぬ事態により世帯年収が下がりライフプランの見直しを余儀なくされた時、つい計画の後ろ倒しや支出の見直しを検討してしまいます。

しかし、家計に占める支出割合が高くなった状態のままであれば、思うような効果を得ることができません。支出の見直しに加え、世帯収入自体を増やし家計に占める支出割合を下げる必要があります。


また、夫婦二人ともが厚生年金に加入する程度の収入を得ることで、老後に受け取る年金額自体が増えるため、老後の生活に更なる余裕が生まれます。


世間の景気動向や家庭環境などですぐに大幅な収入アップが難しい場合でも、あきらめず収入増の機会をうかがうことが大切です。
 

この記事を執筆したのは……

阿部倉 弘子

FPサテライト阿部倉弘子

MILIZE提携 FPサテライト株式会社所属。大学卒業後、数年フリーターを経験。その後IT企業へ就職し、システム運用業務に従事。自身の保険相談や資産運用の相談を通じて、FPの持つ可能性と奥深さに興味を持ち2級FP技能士を取得する。2019年5月AFP認定。現在はIT企業に勤務する傍ら、どんな状況でもお金に振り回されない人生を歩むためのガイド役となるべく活動している。

 

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