店への苦情が、電話を受けた人への攻撃に変わる時
問い合わせ以外では、接客への不満が多く寄せられます。電話をかけてくるお客様の年齢は年々上がっています。若い人の中には、嫌な思いをしても電話をせず、インターネットに書き込んだり、黙って二度と来なくなったりする人もいます。
電話をしてくれるなら、まだ話を聞き、改善する機会がある。谷本さんも、そう教えられていました。
しかし、話し合おうとしても、相手の怒りが担当者自身へ向かうことがあります。
「おまえの電話の受け答えは何なんだ」
「どうせ、ろくに仕事もできないんだろう」
「女じゃ話にならない。男を出せ」
ある日、谷本さんは1時間以上、電話の向こうの男性から罵倒されました。
きっかけは、川崎市内の店で受けた接客でした。アルバイトスタッフの態度が悪かったというのです。谷本さんは何度も謝り、詳しい状況を聞こうとしました。ところが、男性の怒りは、いつの間にか店員から谷本さんへ向けられていました。
通話が終わると、谷本さんは席を立ち、トイレへ駆け込みました。個室の鍵を閉めたところで、涙があふれました。
谷本さんは33歳。派遣社員としていくつかの職場を経験したあと、安定した仕事を求めてコールセンターを運営する会社に転職し、委託先のコンビニ本部へ配属されて3カ月でした。
顔も知らない相手なのだから、仕事だと割り切ればいい。頭ではそう考えても、電話を切っただけでは、浴びせられた言葉は消えません。
苦情を聞くことと、人格を傷つける言葉に耐え続けることは、分けて考える必要があります。担当者の「慣れ」に頼るだけでは、安心して働ける職場にはならないでしょう。
それでも、次の電話はかかってきます。谷本さんが顔を洗って席へ戻ると、着信ランプが点滅していました。
85歳の女性が伝えたかった「あの子を褒めてほしい」
同じ人から、何度も電話が入ることもあります。「レジの順番を抜かされた」
「レシートを渡されなかった」
「外国人店員の態度が悪かった」
本書の西麻布店には、1年間で23件の接客クレームが寄せられていました。相談室には、そうした指摘が記録として蓄積されていきます。
その一方で、こんな電話も届きます。
「いつも買い物に行くお店の従業員さんが、よくしてくれてね」
電話の主は、一人暮らしの85歳の女性でした。息子夫婦とは疎遠になり、リウマチが悪化して、外出するのもつらいといいます。
そんな女性に、近所のコンビニで働く外国人スタッフが、いつも明るく声をかけてくれる。荷物が多い時には、店の外まで運んでくれる。
一度、女性の体調が悪そうだった時には、「大丈夫ですか」と心配し、自宅の前まで荷物を持ってきてくれたそうです。
「私ね、あの子と話すのが楽しみなのよ」
女性は続けました。
「日本語は、まだ上手じゃないけど、とても優しい子なの。だから、褒めてあげてほしくて」
谷本さんは急かさず、相槌を打ちながら聞きました。
女性は、商品について尋ねるためでも、店への不満を訴えるためでもなく、そのスタッフへの感謝を本部に伝えたくて電話をかけてきたのでした。



