AI開発企業のトップらが急速な進化と安全性をめぐって警鐘を鳴らす今、教育現場ではすでに身近な混乱が起きています。生成AIで作られたレポートを見分けられず、学生を公平に評価できるのかという問題です。
心療内科医の海原純子さんによると、AIを使って高評価のレポートを作れても、内容の理解が伴わず、試験では対応できない学生が増えているといいます。成果物が整っていても、考える過程をAIへ預ければ、“理解したつもり”に陥る可能性があるのです。
海原さんと、ITコンサルタントのラスカウスキー照美さんの共著『AIに心を預けて大丈夫か 相談・恋愛・ビジネス・教育から見えてきた人間の未来』(飛鳥新社)から一部抜粋し、思考の過程をAIへ預けることが、知識の定着や自分で考え続ける力に及ぼす影響を紹介します。
「どこまでAIがやってるのか」が見えてこない
日本では2023年以降、大学現場の「困惑」を扱う記事が相次ぎ、教育現場の戸惑いが可視化されるようになった。
「生成AIで作成されたレポートは見分けがつかない」「公平な採点ができているのか不安である」といった声が大学教員から上がっている。さらに、レポートでは高評価を得ているにもかかわらず、試験では対応できない学生が増えていることも報告されている。
「まいったよね、どこまでAIがやってるのかが見えてこない」
「これで評価していいのかと不安になる」
こんな教育現場の声を聞くこともしばしばだ。
こうした混乱を受け、2023年7月、文部科学省は生成AIの利用に関する学校向け指針を公表し、「適切な理解と活用」の必要性を明記した。教育の現場は今、単なるツールの導入ではなく、その前提となる学びのあり方そのものを問い直されている。
2024年3月のFNNニュースでは、都内の中学校で出された課題に対し、生徒の約半数が同じ誤りの答えを提出していたことが報じられた。調査の結果、生成AIの解答をそのまま写していた可能性が指摘されている。また、読売新聞オンラインでも2023年、上智大学がChatGPTの学生利用に対して厳格な対応を検討していることが報じられた。
これらに共通しているのは、学生がAIを用いれば一定水準のレポートを作成できる一方で、その内容の理解が十分に伴っていないケースが増えているという点である。
教員側も、それがAIによるものかどうかの判別が難しく、評価方法の見直しや口頭試問の導入など、従来の教育手法の再設計を迫られている。
AIは「支援が届きにくかった層」を支える可能性も
一方でAIは、これまで支援が届きにくかった層を支える可能性も持つ。質問することにためらいを感じる学習者や、授業の進度についていけない学習者にとって、いつでも応答してくれる存在は重要な足場となり得るという報告がある。
実際、Nature Human Behaviourに掲載された研究では、AIによって一人ひとりに合わせた学習が可能となり、「自分のペースで学ぶ」ことが促進される点が利点として挙げられている。
AIは繰り返し何度でも説明を求めることができ、個別に応答する。
この特性は、従来の教育では支援が行き届きにくかった層に対して、学習機会を提供しうる。結果として、教育水準の底上げにつながる可能性があると指摘されている。
しかし、問題はここからである。



