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心のブラックボックスは無理にこじ開けない
言えないことは心のブラックボックスだ。そこにこそ問題解決の糸口が隠されていることがある。ただそれは他者が無理にこじ開けてはいけない。こじ開けたら壊れてしまう。ただそうしたブラックボックスがあることを相談者と相談を受ける側が共有していることは大事である。
だからこそ、不自然な空白や説明の欠如は、それ自体が重要なサインとして立ち現れる。この相談においても、「母親がなぜいないのか」という点に目が向くのは、臨床的には自然な反応だろう。
とはいえ、これは一度きりの、しかもテキストによる相談である。こちらから問い返すことはできない。その制約の中で、どこまで踏み込むべきかは慎重に考えざるを得ない。
私であれば、祖父母世代の役割を「教える側」ではなく「共感し支える側」と位置づける基本線は維持しつつ、次のような一文を補うだろう。
「ご相談文には明記されていませんが、息子さんがお一人で子育てを担っておられる場合、そのご負担やストレスが気になるところです。また、お孫さんへの影響についてご心配があれば、その点は子育ての方法とは別の次元の問題として、落ち着いて話し合う機会を持たれてもよいかもしれません」
さらに、もし単独での子育てゆえに見落とされがちな視点があると感じるのであれば、それを伝えること自体は決して過干渉ではない。ただし、その際には伝え方への配慮が不可欠である。
「語られなかったこと」に目を向けられるか
テキストをそのまま受け取るのか、それとも書かれていない部分に思いを巡らせるのか。この違いは、回答の質を大きく左右する。
AIは原則として「書かれていないことには踏み込まない」。それは憶測を避けるという意味で、きわめて正しい態度である。
しかし臨床においては、ときに「語られなかったこと」こそが、最も重要な手がかりになる。そこにどう目を向けるか——人が関わる意味は、まさにその点にあるのだろう。
書かれていないことが気になるのは、人が経験上感じる勘だと思う。勘は直感といえるが果たして直感は憶測で非科学的なのだろうか。それを使うか、使わないか、がAIと人の差になる。
著者:海原純子(心療内科医・産業医)
東京慈恵会医科大学卒業。同大講師、日本医科大学医学教育センター特任教授、ハーバード大学大学院客員研究員などを歴任。1986年に日本初の女性クリニックを開設し、復興庁「心の健康サポート事業」統括責任者も務めた。読売新聞「人生案内」回答者、毎日新聞「心のサプリ」連載中。
著者:ラスカウスキー照美(ITコンサルタント・トレーナー)
ペンシルベニア大学ウォートンスクールMBA修了。米国陸軍、Goldman Sachs、Symantecなどを経て独立。情報セキュリティの国際資格CISSP・CCSPを持ち、セキュリティ・クラウド・AI分野の企業研修や技術書の執筆を行う。



