語られないことの奥にあるブラックボックス
AIの回答は、いわば模範的である。だが私が引っかかったのは、「息子が2歳の子どもを連れて実家に帰ってきた」という事実の重さである。
そこには本来、無視できない背景があるはずだ。息子の妻はどうしているのか。離婚なのか、病気なのか、あるいは別の事情なのか——その点が一切触れられていない。
また、母親が不在である可能性を、孫自身はどのように受け止めているのか。さらに、生活費や養育にかかる経済的負担はどのように分担されているのか。そうした現実的な問題への言及もない。
加えて、「子育てについて気になる点」とは具体的に何なのかも不明であり、息子の性格や行動傾向が子育てに影響している可能性も考えられる。しかも、それを「自分だけでなく夫婦ともに気にしている」という点は見過ごせない。
なぜ、これらの具体的な内容が語られていないのか。そこにこそ、相談の核心が潜んでいる可能性がある。
「言えなかったこと」が面談後のリスクになる
人はしばしば、「書かない」「書けない」「あえて触れない」部分にこそ、最も切実な感情を抱えている。本当は話したいのに言葉にできない——その背後には、恥や不安、あるいは関係を損ねることへの恐れが横たわっていることが少なくない。
臨床の現場でも同様である。語りきれなかった思いが、面談後に感情の噴出として現れ、自傷や攻撃といった行動化につながることがある。これはリスクになる。
本当は言いたいことを言えなかったというフラストレーションは面談を終えた後に湧き上がってくる。言いたい、でも言えない、という葛藤だ。だから私は面談のスタートの時、相談者にまずこんな風に伝えることにしている。
「お話をしているときに本当は言いたいけれど言えない、言いにくい、という内容があるかもしれません。それは無理に言わなくて大丈夫です。でも私に、『言いたいけれど言えないことがある』と伝えてください。そうしないと面談の後でフラストレーションがたまりますから。言いにくいことが今のあなたの抱える問題にかかわっているということがあるのでそれは覚えておいてください」



