AIは人間の専門家と同じレベルで悩みに答えられない? 心療内科医が「模範解答」に違和感を覚えたワケ

人には言いにくい悩みも、AIになら打ち明けられる時代。その回答は果たして人間の専門家と同じレベルなのか? 心療内科医・海原純子氏が、ChatGPTの「模範回答」に覚えた違和感の正体を解説します。(画像出典:PIXTA)

語られないことの奥にあるブラックボックス

AIの回答は、いわば模範的である。だが私が引っかかったのは、「息子が2歳の子どもを連れて実家に帰ってきた」という事実の重さである。

そこには本来、無視できない背景があるはずだ。息子の妻はどうしているのか。離婚なのか、病気なのか、あるいは別の事情なのか——その点が一切触れられていない。

また、母親が不在である可能性を、孫自身はどのように受け止めているのか。さらに、生活費や養育にかかる経済的負担はどのように分担されているのか。そうした現実的な問題への言及もない。

加えて、「子育てについて気になる点」とは具体的に何なのかも不明であり、息子の性格や行動傾向が子育てに影響している可能性も考えられる。しかも、それを「自分だけでなく夫婦ともに気にしている」という点は見過ごせない。

なぜ、これらの具体的な内容が語られていないのか。そこにこそ、相談の核心が潜んでいる可能性がある。

「言えなかったこと」が面談後のリスクになる

人はしばしば、「書かない」「書けない」「あえて触れない」部分にこそ、最も切実な感情を抱えている。本当は話したいのに言葉にできない——その背後には、恥や不安、あるいは関係を損ねることへの恐れが横たわっていることが少なくない。

臨床の現場でも同様である。語りきれなかった思いが、面談後に感情の噴出として現れ、自傷や攻撃といった行動化につながることがある。これはリスクになる。

本当は言いたいことを言えなかったというフラストレーションは面談を終えた後に湧き上がってくる。言いたい、でも言えない、という葛藤だ。だから私は面談のスタートの時、相談者にまずこんな風に伝えることにしている。

「お話をしているときに本当は言いたいけれど言えない、言いにくい、という内容があるかもしれません。それは無理に言わなくて大丈夫です。でも私に、『言いたいけれど言えないことがある』と伝えてください。そうしないと面談の後でフラストレーションがたまりますから。言いにくいことが今のあなたの抱える問題にかかわっているということがあるのでそれは覚えておいてください」

次ページ
「言えないこと」は心のブラックボックス。人が関わる意味とは
Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

編集部が選ぶおすすめ記事

注目の連載

  • ヒナタカの雑食系映画論

    松たか子主演映画『ナギダイアリー』が“不穏エンタメ”である理由。なぜ「凪」の日常がスリリングなのか

  • どうする学校?どうなの保護者?

    20年間「駆け込み実績ゼロ」の学校も…「こども110番の家」は本当に必要? PTAが直面する理想と現実

  • 恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」

    【要注意】東京駅で絶対にハマる「最遠ホーム」と「メトロ乗り換え」の絶望トラップ

  • 海外から眺めてみたら! 不思議大国ジャパン

    「移民」に冷たいのはどっちなのか? スイスの厳格過ぎる学歴選別と、日本の曖昧過ぎる外国人政策