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1時間待つのは「舐められてもいい」のサイン
たとえば、理由があったり事情の説明があったりするならともかく、何も言わずに約束の時間に遅れてくる相手を、ただ漫然と1時間待ち続けるのは「舐められてもいい」というサインを送っているのと同じです。
私は、15分以上は待ちませんよ……と静かに席を立つ。あるいは、相手が放つ無礼な言葉に対して、微笑みながら「その視点は、私には到底たどり着けない『貴方だけの世界』の特色ある景観で、実に新鮮ですね」と返す。
これらは、相手に「この人は、怒っていないが、決して踏み込ませてくれない境界線(毒)を持っている」と直感させるために必要なテクニックです。
感情を爆発させず、「毒」を見せる
性善説だけでは、このマウント社会を泳ぎきることはできません。
リアリストになりましょう。そして、ときには「リアルな人間」としての毒を見せる。ただし、それは感情の爆発ではなく、テクニカルに統御された適切な量の「ハバネロの滴下」であるべきです。
「言い返せる人」が勝つ時代。それは、語気の強さで圧倒する人のことではなく、知性のハバネロを優雅に使いこなし、相手に「この人の毒は痛いが、抗いがたい品格がある」と思わせてしまう、孤高の調律師のことなのです。
一滴の血も流さず、しかし確実に境界線を守り抜く。その「おいしい毒」こそが、現代を泳ぎきるための究極の作法となるでしょう。
著者:中野信子(脳科学者、医学博士、認知科学者)
東京都生まれ。東日本国際大学特任教授、京都芸術大学客員教授、森美術館理事。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピン勤務を経て帰国。脳や心理学をテーマに、人間社会の事象を科学の視点から解説する。



