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優しく肯定するな、背中をドンと蹴り出せ! 「超訳」に込めた仕掛け
——今回の新刊は、そのシオランを「超訳」するという試みですが、どのような苦労がありましたか?済東:いや、もう本当に苦労しました! 2年半かかりましたからね。僕の前著は、かなりしゃべりまくる暴れ馬のような文体なんですけど、今回はシオランの言葉そのものの魅力をどう出すか、編集さんと最後の最後までめちゃくちゃやりとりしました。「あんた」というカジュアルな言葉で読者に呼びかけたいけれど、これは強過ぎるか、とか。
それと、この本を作る上で僕がすごくこだわったのは、原典には全然ないけれど、あえて「びっくりマーク(!)」をつけることだったんです。
——びっくりマーク、ですか?
済東:今の時代の自己啓発書って、生きづらさを抱えている人に対して「そのままでいいんだよ」って優しく肯定するものが主流ですよね。
でもシオランの場合、「おい、怠けろ! むしろ」みたいな感じで、びっくりマークをつけて背中をドーンと蹴り出してくる勢いがある。優しくするんじゃなくて、その熱い情熱的な勢いを再現するために、このびっくりマークが必要だったんです。
「孤独が教えてくれるのは、あんたが一人だってことじゃない。あんたが唯一無二の存在なんだってことだ」という名言もありますけど、ただ象牙の塔にこもらせておくにはもったいない言葉ばかり。日常にいかに彼の思想を根付かせるか、その文体づくりが一番の戦いでしたね。
「生きる意味」のちゃぶ台返し。仕事を頑張る人にこそ読んでほしい
——今の現代日本は、閉塞感やインフレ、働き方の悩みなど、真面目に考えれば考えるほど暗くなってしまう環境があります。そんな現代人に向けて、シオランは何を語りかけるでしょうか?済東:きっと、「生きる意味を求めるのをやめろ」って言うと思います。あまりにも重く意味を考え過ぎるから、みんな止まって停滞してしまう。
シオラン自身、自分が苦しんでいるのを見て、母親から「そんなに苦しむんだったら中絶しときゃよかった」って言われてるんですよ(笑)。
普通ならショックを受けますけど、彼は「あ、自分が生まれてきたのって意味とかじゃなくて単なる偶然だったんだな」って、逆に心が軽やかになっちゃった。
だから、会社で頑張って「歯車みたいになっている」と感じて疲弊しているビジネスパーソンにこそ、彼のエゴイズムをさくれつさせた言葉を読んでほしいんです。「歯車の域から逃れろ!」って。
——最後に、この本をどんな人に届けたいですか?
済東:かつての僕みたいに、うつや不安障害で苦しんで、「生きている意味あるのかな」ってふと死ぬことを考えちゃうけれど、死ぬ勇気もないからズルズル生きている……そういう人にマジで読んでほしい。
外見からは分からなくても、負の感情を抱えていない人間なんていないわけですから、極論を言えば「全員読め」と(笑)。
シオランは、僕にとっては横にいてちょいちょい小突いてくるような、悪い道に引き込んでくるけれど憎めない「悪友」みたいな存在です。
彼の言葉は毒みたいなものなので、用法用量を守って正しくお使いください、ではあるんですけど、毒が薬になる瞬間は絶対にあります。ぜひ、この最高の悪友を日常に迎え入れてみてほしいですね。 済東鉄腸(さいとう・てっちょう)プロフィール
映画ライター、文筆家。大学受験や就職の失敗、引きこもり生活に苦しむ中で、哲学者シオランの言葉に救われ、ルーマニア文化に傾倒。独学でルーマニア語を習得し、ルーマニア語で執筆された小説や詩が現地の文芸誌に掲載されるまでに。独自のパワフルで軽妙な文体で書かれたエッセイで熱狂的な支持を集める。著書に『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』『クソッタレな俺をマシにするための生活革命』など。 新刊『生まれるのも生きていくのもめんどくさい!超訳シオランの言葉』とは?
これまで「難解でカルト的人気」だったシオランの思想を、現代のビジネスパーソンやSNS世代に向けてポップにかみ砕いた一冊。優しく寄り添うのではなく、「おい、怠けろ!」と背中をドンと蹴り出すようなパワーワードが満載。



