新刊『生まれるのも生きていくのもめんどくさい!超訳シオランの言葉』の編訳者であり、自身も難病(クローン病)や数々の絶望をシオランの言葉とともに生き抜いてきた映画ライター・小説家の済東鉄腸(さいとう・てっちょう)氏に、日々プレッシャーと戦う人へ向けた「悲観主義の武器化」についてお話を伺いました。
E・M・シオラン(1911〜1995)
ルーマニア出身の哲学者・思想家。20世紀最高の「不謹慎な天才」とも称される。「人間は生まれてこないほうがよかった」といった極限の悲観論を、短く切れ味の鋭いアフォリズム(格言)で美しく歌い上げ、世界中に熱狂的なファンを持つ。
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羽生結弦氏も愛読。「極限のプレッシャー」を溶かすカタルシス
済東鉄腸氏(以下、済東):僕もそうだったんですけど、シオランの書いている本当にネガティブで悲観主義的な言葉を読むと、「あ、自分と同じことを思ってくれている人がいるんだな」っていう、強烈な慰めになるんですよね。「ここまでネガティブなことを考えている奴が世界にいるんだ」と思うと、時々笑えてくるくらい。
よく、悲劇的な舞台や映画を見ると心が浄化される「カタルシス効果」って言いますよね。プレッシャーに押しつぶされそうだったり、心が折れたりしている人って、まさに心が後ろ向きで悲劇的な状態にあるわけです。
そういうときにシオランの言葉に触れると、心の中の泥がスッと洗い流される。その浄化があって初めて、「じゃあ、ここからまた頑張っていくか」と前に進むことができるんです。
だから、今まさにプレッシャーや閉塞感でしんどい思いをしている人ほど、シオランを読んでほしいなと思いますね。
泥くさい本音を吐き出しながら、80年以上「生きていってしまえる」という事実
——言葉の毒が、逆にデトックス(解毒)になるわけですね。済東:そうそう。今回の本を書いているときに、シオランの『カイエ(手帳)』という日記のような本を読み返していたんです。
そこには、「なんと多くのバカとアホを尊敬したものか。過去のことを思うと恥ずかしさで胸がふさがれる」なんてことが書きつけてあって(笑)。「すげえな、この人」と思いました。
でも、僕らも後ろ向きに考えているときって、こういう恥ずかしいことやドス黒いこと、雑な感情を心の中で思っちゃったりするじゃないですか。
シオランはそういうヤバい感情をありのままノートに吐き出しながら、なんだかんだで80何年も生きた。しかも、その泥くさい本音が死後に出版されて、今や世界中でめちゃくちゃ読まれているわけです。
彼の生き方を見ていると、「どんなにカッコ悪い感情を抱えていても、人間はなんだかんだで生きていってしまえるんだな」って、普通に心が軽くなるんですよ。
今抱えている苦しみも、振り返れば「あの経験も価値があったかもな」って、後から軽く捉えられるようになるかもしれない。そう思わせてくれるのがシオランのすごみです。



