「生きるのめんどくさい!」ドス黒い本音を吐き出しながら80超まで生きちゃった思想家の“最強の教え”

新刊『生まれるのも生きていくのもめんどくさい!超訳シオランの言葉』の編訳者・済東鉄腸氏が、負の感情を武器に変えるタフな生き方を語る特別インタビュー。(画像出典:PIXTA)

※画像はイメージ(画像出典:PIXTA)
羽生結弦も愛読した思想家が“現代人の折れた心”を救うわけ(画像出典:PIXTA)
「家族は素晴らしい」「前を向いて生きよう」——そんなポジティブな社会通念に冷や水をぶっかけ、80年以上の生涯を通じて「人間の負の感情」を情熱的に歌い上げた思想家、E・M・シオラン。

新刊『生まれるのも生きていくのもめんどくさい!超訳シオランの言葉』の編訳者であり、自身も難病(クローン病)や数々の絶望をシオランの言葉とともに生き抜いてきた映画ライター・小説家の済東鉄腸(さいとう・てっちょう)氏に、日々プレッシャーと戦う人へ向けた「悲観主義の武器化」についてお話を伺いました。

E・M・シオラン(1911〜1995)
ルーマニア出身の哲学者・思想家。20世紀最高の「不謹慎な天才」とも称される。「人間は生まれてこないほうがよかった」といった極限の悲観論を、短く切れ味の鋭いアフォリズム(格言)で美しく歌い上げ、世界中に熱狂的なファンを持つ。

※本記事で紹介している商品の購入やサービスの利用により、売上の一部がオールアバウトに還元されることがあります。

羽生結弦氏も愛読。「極限のプレッシャー」を溶かすカタルシス

絶望の時期にシオランの言葉と出会い、ルーマニア文化に傾倒していったという済東鉄腸さん
映画ライター、文筆家の済東鉄腸さん
——トップアスリートである羽生結弦さんもシオランを愛読していたことが知られています。常に極限のプレッシャーと戦う表現者や、日々仕事や生活に追われて心が折れそうな現代人にとって、この「悲観主義」はどのように心の支えや武器になると思われますか?

済東鉄腸氏(以下、済東):僕もそうだったんですけど、シオランの書いている本当にネガティブで悲観主義的な言葉を読むと、「あ、自分と同じことを思ってくれている人がいるんだな」っていう、強烈な慰めになるんですよね。「ここまでネガティブなことを考えている奴が世界にいるんだ」と思うと、時々笑えてくるくらい。

よく、悲劇的な舞台や映画を見ると心が浄化される「カタルシス効果」って言いますよね。プレッシャーに押しつぶされそうだったり、心が折れたりしている人って、まさに心が後ろ向きで悲劇的な状態にあるわけです。

そういうときにシオランの言葉に触れると、心の中の泥がスッと洗い流される。その浄化があって初めて、「じゃあ、ここからまた頑張っていくか」と前に進むことができるんです。

だから、今まさにプレッシャーや閉塞感でしんどい思いをしている人ほど、シオランを読んでほしいなと思いますね。

泥くさい本音を吐き出しながら、80年以上「生きていってしまえる」という事実

——言葉の毒が、逆にデトックス(解毒)になるわけですね。

済東:そうそう。今回の本を書いているときに、シオランの『カイエ(手帳)』という日記のような本を読み返していたんです。

そこには、「なんと多くのバカとアホを尊敬したものか。過去のことを思うと恥ずかしさで胸がふさがれる」なんてことが書きつけてあって(笑)。「すげえな、この人」と思いました。

でも、僕らも後ろ向きに考えているときって、こういう恥ずかしいことやドス黒いこと、雑な感情を心の中で思っちゃったりするじゃないですか。

シオランはそういうヤバい感情をありのままノートに吐き出しながら、なんだかんだで80何年も生きた。しかも、その泥くさい本音が死後に出版されて、今や世界中でめちゃくちゃ読まれているわけです。

彼の生き方を見ていると、「どんなにカッコ悪い感情を抱えていても、人間はなんだかんだで生きていってしまえるんだな」って、普通に心が軽くなるんですよ。

今抱えている苦しみも、振り返れば「あの経験も価値があったかもな」って、後から軽く捉えられるようになるかもしれない。そう思わせてくれるのがシオランのすごみです。
次ページ
心を折れにくくする「悲観主義の武器化」とは?
Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

編集部が選ぶおすすめ記事

注目の連載

  • ヒナタカの雑食系映画論

    ホラー映画『オブセッション 災愛』はなぜ歴史的大ヒット? “レベルMAXのヤンデレ化”だけじゃない怖さとは

  • どうする学校?どうなの保護者?

    20年間「駆け込み実績ゼロ」の学校も…「こども110番の家」は本当に必要? PTAが直面する理想と現実

  • 恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」

    南海電鉄の新・観光列車「GRAN 天空」は“高野線の救世主”となれるか。100年ぶりサービス復活の勝算

  • 海外から眺めてみたら! 不思議大国ジャパン

    「移民」に冷たいのはどっちなのか? スイスの厳格過ぎる学歴選別と、日本の曖昧過ぎる外国人政策