ただ、実際の数字を見ると、1都3県の中で私立中学の受験者数が増えているのは東京都だけ。東京都は前年比101.1%ですが、一方で、埼玉県は94.3%、千葉県は97.0%、神奈川県は94.0%と減少傾向にあります。
首都圏模試センター(ONETES)教育研究所長の北一成さんは、朝日新聞EduAの取材に対し、「予想以上に減少が大きかったのが神奈川県です」と答えています。
かつては中学受験の「メッカ」と呼ばれた神奈川で、一体何が起きているのでしょうか。30年にわたり神奈川の受験現場を見続けてきた、中学受験PREX塾長の渋田隆之先生のお話を交え、その背景を探ります。
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横浜市でさえ人口減。「中学受験熱」を冷ます現実的な要因
神奈川の受験生減少、その最大の要因は「人口減」です。神奈川県全体の人口は、2025年1月時点では前年同期比で6110人減少。なかでも中学受験が盛んとされる横浜市は、2025年10月に発表した国勢調査の速報値によると、前回比で2万2651人も減少していることが分かりました。横浜市の人口が減少に転じたのは、1947年以来のことだそうです。
一方で、神奈川県内でも「都内に出やすい地域」は人口が増えています。その代表が川崎市中原区の武蔵小杉です。
複数路線が乗り入れる交通の利便性からタワーマンションが林立し、ファミリー層が急増。駅周辺にはSAPIX、早稲田アカデミー、日能研といった大手塾から、エルカミノやグノーブルなどの難関対策塾までが軒を連ね、新たな「塾のメッカ」となっています。
このように局所的な盛り上がりはあるものの、かつて人気だった川崎市宮前区などは、都内へのアクセス時間の面から敬遠される傾向も出始めています。県全体としてのファミリー層の減少が、受験者数低下の底流にあるのは間違いありません。
「高校無償化」の影響と、根強い公立進学校の人気
もともと神奈川県は、高校入試で内申点が重視される仕組みがあることや、県内に魅力的な私立校が多いことから、中学受験への関心が非常に高い家庭が多い地域とされてきました。そこにきて昨今、中学受験者が減っていると聞くと、「高校無償化の影響はないのか」と思う方もいるでしょう。
東京都の中学受験率が高止まりしている背景には、高校無償化の影響があるとされます。高校3年間の学費補助を見越し、「それなら中学から私立に通わせた方がいいのでは」と考える家庭が増えているのです。
渋田先生は、「神奈川県での無償化の影響はこれからでしょう」と分析します。
現在、神奈川県の公立高校入試では志願者が減っており、倍率は過去最低水準の1.11倍。公立中学の卒業予定者数はほとんど変わらないため、私立高校への「専願」が増えたと推測されます。無償化の影響が中学受験にまで波及するかは、来年以降、注目したいところです。
また、神奈川は伝統的に「公立志向」が強い地域でもあります。
公立中高一貫校は人気が落ち着いてきましたが、県立の難関校、翠嵐(すいらん)や湘南といった高校は、今や都立日比谷に並ぶ進学校として知名度が上昇。学力最上位層が中学受験をせず、あえて高校受験でこれらの難関校を目指すケースも多いのです。



