体感マイナス30度、凍りつくカメラ。気鋭の写真家が「旧ソ連の巨大廃墟」にシャッターを切る理由

体感マイナス30度、凍りつくカメラ、止まらない震え。なぜ彼女はそこまでして極限の地へ向かったのか? 気鋭の写真家が命懸けで切り取った「巨大廃墟」と、今はもう見られない貴重な景色を追う壮絶な撮影紀行。(画像出典:『旧ソビエト連邦を歩く』)

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寒さで高ぶる感情。巨大廃墟の奥に見たもの

中国国境近くのゴーストタウンと化した軍事都市。ここの帰り道車を走らせていたら突然真っ白な梟(ふくろう)が目の前にふわりと降り立った。
中国国境近くのゴーストタウンと化した軍事都市。ここの帰り道車を走らせていたら突然真っ白な梟(ふくろう)が目の前にふわりと降り立った。
ウラジオストクで愉快な正月を迎え、街や人々の様子を見て「これは国内線で移動しても大丈夫そうだな」と判断しさらに北上、ハバロフスクまで行ってみる事にした。

この時のハバロフスクの最低気温はマイナス27度、ウラジオストクよりもマイナス10度ほど寒かった。寒さの質がまた変化する、肺の奥から凍ってしまいそうだ。

まつ毛が凍りマスクを取れば鼻の穴の中まで凍る。シロクマのロゴが可愛いSORELのスノーブーツでも足元が冷たい。震えで筋肉が痛み身体はどう考えても辛い、しかし寒さが厳しくなればなるほどテンションは上がっていく。この時対峙したのはハバロフスク北部最大の企業だった造船所の廃墟だった。現役の造船所の敷地内にあるので警備員に交渉を持ちかけ許可を得る事ができたが「鍵はないから後は適当に入れる所から入って」……丁度壊れた窓があったのでそこから入った。

敷地内を闊歩する大きな犬たちは、狭い隙間から中に入りゆく私を見届けると去って行った。視界の先にあったのは鎌と槌のマークだった。農民と労働者の団結を表し、マルクス・レーニン主義の共産主義や共産党のシンボルとして各所で使用されている。

伽藍洞の部屋を抜けドアを開け、奥へ奥へと進んでいくとあまりにも巨大な船の軀体が目の前に姿を表した。広角レンズではとてもじゃないが収まりきらない。まるでソビエトそのものを体現しているかのようだった。
規模が小さくとも軍事“都市”扱いなのは何だか変な感じがする。このような場所は無数に存在しており、場所によっては現在も軍の管理下にあり軍事演習を行っている。市街地を想定した戦闘訓練を行うのに適しているそうだ。
規模が小さくとも軍事“都市”扱いなのは何だか変な感じがする。このような場所は無数に存在しており、場所によっては現在も軍の管理下にあり軍事演習を行っている。市街地を想定した戦闘訓練を行うのに適しているそうだ。
冬の極東ロシアは氷の世界だ。降り積もった雪は太陽光で溶けては凍りを繰り返し硬質の氷となっていく。

どうしてこんな厳しい環境下でも人は生活を営み生きていけるのだろう。中国国境付近の廃墟と化した軍事都市を目指した時もそんな疑問しか湧き上がらなかった。

失われた景色。「今行かないと」という焦燥

廃墟化した空軍防空部隊の訓練所はソビエト時代がそのまま残されていた。
廃墟化した空軍防空部隊の訓練所はソビエト時代がそのまま残されていた。
同年春、私は雪解け後のロシアに降り立っていた。

今行かないと絶対に後悔する、そんな予感がした。そしてそれは悲しくも2022年ロシアがウクライナに軍事侵攻した事により現実となってしまった。

私が見た放棄された鉄屑たちはことごとく解体され姿を消した。ロシア人の友の中には祖国に失望し海外に移り住んだ者もいた、ウクライナ人の友がいるロシア人も多い。

ロシアは外国人が気軽に訪れるには障壁が多い国となってしまった。(人によっては今も昔も変わらず障壁が多い国と感じているかもしれないが)あれから私はロシアを訪れていない。

次に訪れるのはいつになるだろうか、そう遠くない気もするがかつてのような純粋な気持ちでは楽しめない気がする。

言い知れぬ焦燥感に駆られ、風が吹くまま移動に移動を重ねた。
旧ソビエト連邦を歩く
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この記事の執筆者:星野藍 プロフィール
福島県出身。写真家・グラフィックデザイナー。軍艦島をきっかけに、廃墟を被写体として撮影を始める。旧共産圏や未承認国家に強く惹かれ、近年縦横無尽に巡っている。「APAアワード2024」金丸重嶺賞、「名取洋之助写真賞」奨励賞を受賞。著書に『旧ソビエト連邦を歩く』(辰巳出版)などがある。
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