【チョルノービリ事故40年】立入禁止区域で自給自足。写真家が見た“死の土地”で余生を送るお婆ちゃん

事故から40年。立入禁止となったチョルノービリの廃墟の奥に、今も自給自足で暮らすお婆ちゃんたちが? 写真家・星野藍が見た“死の土地”に確かにある、温かい生の営みと交流を記録した紀行文。(画像出典:『旧ソビエト連邦を歩く』)

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廃墟の奥にあった、自然の息吹と「自給自足の暮らし」

史上最悪の原子力発電所事故により放射能で汚染され人が住めなくなった街……それまでチョルノービリは遠い国で起きた過去の出来事でしかなく、そこに残るゴーストタウンも、廃墟を被写体とする自分からすればいつかは行きたい憧れの場所という認識だった。

失礼な言い方だが他人事だからこそ、そのように能天気に捉える事ができたのだろう。しかしそれが自らの故郷の事となると、今まで抱いていた価値観のまま写真を撮る事ができなくなってしまった。

そんな己の葛藤に思い悩んでいた時、尊敬する写真家・中筋純さんよりチョルノービリ渡航の手引きをして頂ける事になった。

中筋さんは、出版社勤務後フリー写真家となり、日本の廃墟に関する写真集やムック本を数多く上梓している大先輩だ。2007年にチョルノービリの撮影を開始され、2011年4月新宿のニコンギャラリーで『黙示録チェルノブイリ 再生の春』を開催している時にお会いしたご縁で今に至る。

悩み続けるくらいなら実際に自分の目で見て五感で感じたほうが早い。チョルノービリは廃墟化した光景が広がるだけではなく、伸びやかに生き続ける動物たちの姿や手付かずになった自然があり、そして自主的にチョルノービリへ戻ってきた人々・サマショールの存在があった。
生まれ育った場所で死にたい、故郷への渇望。サマショールたちは静かな余生を過ごしているが、高齢化により人数は減少の一途を辿っている。
高齢化によりサマショールの人数は減少の一途を辿っている。子供たちの住む都市部に移り住む者、病状が悪化し入院する者、そこで最期を迎える者。チョルノービリ原発事故から40年が経とうとしている、時の流れは残酷で平等だ。
彼らの生活は自給自足で、電気は通っているがガスも水道もない、昔ながらの自然豊かなソビエトの村の暮らしを続けている。政府は本来禁止である滞在を黙認し、彼らの穏やかな余生を支援している。

立入禁止の地で余生を送るお婆ちゃんの手料理と温もり

2022年2月ロシア軍による軍事侵攻が始まりチョルノービリ原発を占拠した時はどうなるかと思ったが、いまだに住み続けるサマショールもいる事をウクライナ人ストーカー(立入禁止区域に無断で侵入する人々)のSNSより確認した。

プリピャチを撮影した翌日、サマショールの一人に会いに行った。マトリョーシカのような可愛いお婆ちゃんが振る舞ってくれた鶏つくねは新鮮で、家の周りで採れたキノコも野生的な美味しさだった。
飼っている鶏を潰して作った新鮮な鶏つくねはとても美味しい
飼っている鶏を潰して作った新鮮な鶏つくねはとても美味しい。
正直口に入れる事を一瞬躊躇したが、目の前の彼女はこうして元気に生きている。お婆ちゃんと別れ際にぎゅっと抱きしめ合った。優しい瞳の奥に何処か寂しさを抱いているように見えた。
生まれ育った場所で死にたい、故郷への渇望。サマショールたちは静かな余生を過ごしている
生まれ育った場所で死にたい、故郷への渇望。サマショールたちは静かな余生を過ごしている。
2013年、全てが永遠の黄昏に染まる秋、2014年、青が立ち上がるような爽やかな夏。二度のチョルノービリ渡航を経て、私は廃墟や原発事故と向き合うだけではなく、旧ソ連、旧共産圏そのものに興味を持った。

日本にはない空気感や建築デザイン、人の在り方や目に飛び込むものの全て。他の国々のそれらもこの目で見たい、その好奇心が旧ソ連構成国全てを駆け巡る旅に掻き立てようとは、流石にこの時は思っていなかった。
旧ソビエト連邦を歩く
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この書籍の執筆者:星野藍 プロフィール
福島県出身。写真家・グラフィックデザイナー。軍艦島をきっかけに、廃墟を被写体として撮影を始める。旧共産圏や未承認国家に強く惹かれ、近年縦横無尽に巡っている。「APAアワード2024」金丸重嶺賞、「名取洋之助写真賞」奨励賞を受賞。著書に『旧ソビエト連邦を歩く』(辰巳出版)などがある。
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