ヒナタカの雑食系映画論 第214回

『災 劇場版』香川照之が映るだけで「もうダメだ」となる理由。『8番出口』や『鬼滅の刃』との共通項は

『災 劇場版』は主演の香川照之はもちろん、「構成」も恐ろしい作品でした。映画『8番出口』や漫画『鬼滅の刃』との共通項も含めて、魅力を解説しましょう。(※画像出典:(C)WOWOW)

劇場版→ドラマの順に見てほしい理由

さらには、各エピソードでの主演俳優は中島セナ、松田龍平、内田慈、藤原季節、じろう(シソンヌ)、坂井真紀と豪華で、それぞれが「こうして生きてきた人なんだな」と思わせる、実在感のある役柄に完璧にハマっていました。
災映画
(C)WOWOW
それぞれが香川照之演じる男と「邂逅」することでどのような「反応」が起きるかにも注目してほしいですし、それぞれの物語を「つないでいく」役割である警察チームの中村アン、竹原ピストル、宮近海斗もまた重要な役柄でした。

ドラマ版は各話50分ほどの内容で、つまりは6話分合計で5時間ほどのボリュームがあるのですが、劇場版は128分に収まっています。このため、ドラマ版での各エピソードはより「断片的」になり、時には「要素がバッサリとカット」されているため、劇場版の後にドラマ版を見ると「なるほど、そういうことがあったのか!」と驚けるでしょう。

前述したように、劇場版を先に見てこそ「不可解さ」がより恐ろしく思えますし、ぜひ劇場版→ドラマ版の順に見てほしいです。
災映画
(C)WOWOW
また、“ある男”が「前の被害者の何かを受け継いでいる」「前の人格とは真逆の特徴を持つ」ことにもぜひ注目してほしいです。例えば、被害者の女性の1人が「苔を育てることが趣味」だったことが後にどうなるのか……ドラマ版を見てみると“ある男”が「うなぎの弁当が好きなこと」が後にそうではなかったり……。

そうしたところで「考察」がはかどる内容とも言えますが、どれほど考えても、結局は後述する「残酷で理不尽な真理」に近づいていくことも、また恐ろしいとも言えます。

香川照之ありきの企画、そして「間」も恐ろしい

やはり本作の目玉は、災いそのものと言える“ある男”を、香川照之が演じているということ。WOWOWオンデマンドで配信されている特別鼎談(ていだん)の動画では、監督の1人である平瀬謙太朗が「香川さんにお願いして、断られたら、この企画はナシだね」とも口にしています。

つまりは「香川照之ありきの企画」であり、本編を見ても「香川照之にしか演じられないのでは?」と思える役でした。
何しろ「同じ人のようで違って見える6人の男」を「演じ分けている」のです。優しそうだったり、ちょっとウザいほどに気さくだったり、かと思えばオドオドしていたり……それぞれはまったく違う人に見えるけど、気味が悪いほどの「不穏さ」は共通していて、あるいは人ならざる「空虚さ」までをも感じさせる……なるほど、この役は他のどんな実力のある俳優が演じても「普通の人」になりすぎて、役の説得力を欠いてしまうのではないか、と納得できたのです。

ショッピングモールでのエピソードでは、香川照之は理容師を演じており、その理容指導の練習時間はものすごく短かったとのこと。スタッフや共演者にハサミさばきのちょっとしたコツまで披露していたため、監督の1人である関友太郎は「香川さんの姿を見ていると、こうやって短期間のうちに新たな職業を習得してしまうということは、あながち嘘じゃないぞ、有り得るぞ」と納得させられてしまったのだとか。
さらに、筆者が個人的に怖いと感じたのは、「間」です。香川照之演じる“ある男”は、普通にコミュニケーションができると思いきや、とある質問を投げかけた時には、とても長い間をおいてから、やっと返答したりするのです。そこには、「その質問にこの男の本質があるのかもしれない」と思えて、よりゾッとしました

香川照之は2022年に重大なスキャンダルが報じられていました。たとえ被害女性への謝罪と示談も済んでいるとはいえ、俳優としての復帰そのものに拒否反応を覚える人は少なくはないはずです。そのことが本作を見る、見ないの大きな選択の基準になるというのは、作り手も覚悟の上でのことでしょう。

ただ、『災 劇場版』は香川照之本人に対してどうしても抱いてしまう嫌悪感も、劇中の「客観的には受け入れられない」役にシンクロしているように思えました。それが作り手の意図していたものでなくとも、本作の役柄そのものが、現実での香川照之が起こした問題を「なかったことにはしていない」、ある種のメタフィクション的な構図もあると、筆者個人は思えたのです。
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映画『8番出口』と共通するのは「手法がテーマを担う」こと
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