先月発売された初の画集『コイモ 小熊香奈子画集』(辰巳出版)には、写生やスケッチも含め、120点ほどの作品が収録されている。
泥だらけで鳴いていたコイモを保護してから、「猫日本画家」となった小熊さんに、コイモとの出会いや、日本画の魅力について、話を伺った。
「天才やな」驚きの連続だった子猫との暮らし
親猫についていけなくなって、溝で弱っていたキジトラの子猫を保護したのがコイモとの出会いです。泥だらけの子猫の見た目が里芋(小芋)そっくりだったので、その第一印象から名前はコイモと名付けました。
子猫特有の猫毛がパヤパヤとした愛くるしい見た目をしていたのとは裏腹に、これまでずっとひもじい思いをしてきたためか、なでると体は骨ばかりの痩せ具合にとても驚きました。そのギャップが切なかったです。
——これまで猫と暮らしたことはありましたか?
子どもの頃から犬と暮らす生活をしてきましたが、猫と暮らすのは初めてでした。
なので、コイモと暮らし始めた1日目から驚きの連続でした。一番びっくりしたのは猫の満足しているときに発せられるゴロゴロ音が思いのほか大きかったことです。発電機かモーター音かと思うほどでした。
窓辺に小鳥が遊びに来た時に発せられる「カカカ」という声も初めて聞いた時は「え!? なんの音?? 猫ってこんな鳴き方もするんだ」と驚かされました。おトイレを一度で覚えた時は「天才やな」と思いました。
あと、子猫コイモと遊んでいて体感5分だったのに、時計を見たら1時間たっていたのにも驚きました。猫と遊ぶと時間が溶けますね。
——コイモちゃんは、どんな性格の猫ちゃんなんでしょう?
すごく人見知りですがマイルドな性格で、家族には甘えん坊です。家族が学校や仕事から帰ってくる夜には、いつも誰かの膝の上に乗ってうたたねを楽しんでいます。お昼寝も好きで、いつもお気に入りの寝床で昼寝を楽しんでいますね。抱っこも大好きです。
甘えたい時には甘え、家族の足首を狩りたい時には足首ハンティングを楽しみ、呼ばれても気が向かない時は無視をする……そんな風にいつも思いのまま、自然体で過ごしているところがすごくかわいいなと思います。
また、かなりのんびりとした性格なのか、カーテンや障子に登ることもなく、畳で爪を研ぐこともなく、思いのほか部屋がきれいな状態なのにびっくりしています。私のほうが建具や壁紙、照明器具に大作制作用パネルをぶつけているので家を破壊していると思います。
線や形で猫のぬくもりを伝える
——小熊さんが日本画の道を志されるようになったきっかけを教えてください。きっかけは高校時代です。通っていた高校が美術やデザインを専門に学ぶ学校で、私が在籍していた美術科では洋画、日本画、塑像(そぞう)などを選択授業で学ぶことができました。
「描いたことのないジャンルの絵画で面白そうだったから」という、何ということのない理由で始めた日本画でしたが、作品を作るうちに日本画の面白さと奥深さに目覚め、美大進学後も日本画コースを選択し、現在も日本画を制作するに至ります。
高校時代に日本画の描き方を教えてくださった恩師は日展(※編集部注:日本美術展覧会。国内で最も権威ある総合美術展の1つ)に所属されています。そして生徒の私も今、日展に出品していることに何か強いご縁を感じています。
——日本画の魅力はどのようなところにあると感じていますか?
伝統的な日本画の描き方の特徴でもある、モチーフをそっくりそのままに描くのではなく、ある程度引き算(デザイン化というのでしょうか)をして普遍的な線や形にモチーフを造形していく描き方に強く惹かれます。
私は現在猫の絵を日本画で描いていますが、猫を描くのに線や形で捉える日本画的な表現がとてもしっくりきています。線や形で猫の柔らかさやぬくもりが観る人に伝わるような作品を目指しています。
——コイモちゃんのいる日常を描いた作品は、どんな思いで制作されているのでしょう?
表情やしぐさなど、作品を観てくださった方が「あるある。猫ってこんなだよね」と思ってくれそうな、そんな猫と暮らす日常の場面を思い描きながら制作しています。
なので、観る方がフフッとなるような、ユーモアのある絵が描けたらいいなと思っています。
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「天才やな」と愛でて6年。日本画家が“キジトラまみれ”の画集を作った理由 小熊香奈子 プロフィール
大阪府和泉市出身。現在は和歌山にアトリエを構える。大阪芸術大学大学院芸術制作研究科修士課程修了。第43回日春展奨励賞、第8回日展・第1科(日本画)特選受賞。和歌山の漁港で捕れた魚や実家で育った野菜、庭に咲いた花々など、身近なモチーフを精緻な筆致で繊細に描く。作品には愛猫・コイモが毎回登場。



